このヒカリの下を、もう一度君と
⑪
あれから6年が過ぎた。
私は祖母に引き取られ、周りから見たら普通の日常を送っている。
あの事件の後、涼太の家族は引っ越していった。
引っ越し先は誰にも告げず夜逃げ同然だったらしい。
涼太は14歳未満だった事もあり、児童自立支援施設に送致されたと噂で聞いた。
ずっと忘れられなかった。
ずっと後悔してた。
あの時、
涼太の手を払い除けた事を。
あの時の涼太の顔が、
ずっと忘れられない。
久しぶりに全速力で走った。
まわりの目なんて気にならない。
息が上がる。
汗が流れる。
ゼエゼエと肩で息をする。
「……変わってない」
久しぶりの家、
私の家、
私が、パパとママ、お姉ちゃんと幸せに過ごしていた家を前に、私は立ち尽くす。
息を整え、深呼吸する。
さっき電車から見た時は涼太は門の前にいた。
涼太、どこにいるの?
隣の家を見る。
かつての涼太が住んでた家だ。
あんなに笑い声が、笑顔があふれていたこの2軒の家は、今は暗く淀んでいる。
事故物件だ、買い手がいないのも当たり前だ。
6年振りに家のドアに触れた。
開くわけはないけれど、ぐっとドアを押してみる。
カチャ……
……え?
思わずドアから手を離す。
少し開いたドアはまた固く閉じられる。
……どうして?
何で、
開いてるの……?
買い手も借り手もつかない私の家だったこの家は、
今は不動産が管理しているはずだ。
当然、防犯対策のため鍵は玄関ドアも窓もしっかりとしているはずなのに。
もう一度深く深呼吸して、ドアを押す。
するとドアは昔のように、
私を招き入れるように開いた。
ドクドクとうるさい胸をぎゅっと押さえてゆっくりと中に足を踏み入れる。
……ああ、私の家だ。
もう、全ての物は処分されてしまって何もない、ガランとした家だけど、
確かに私が過ごした家だ。
涙が出そうだ。
だけど泣いてる場合じゃない。
そのまま私は廊下を歩いてリビングの前にいく。
リビングのドアの前で止まる足。
いっそう早く強く音を立てる心臓。
背中に冷たい汗が流れる。
ドアに触れる手は震えている。
……あの日、
このドアを開けた私は……。
吐き気がする。
気持ち悪い。
でも、このまま帰る訳にはいかない。
だって、
涼太がいるかも知れない。
震える手でリビングのドアを開ける。
ぎゅっと閉じた目を開けると、
あの日と同じ、カーテンは閉められ暗いリビングが目に映る。
あの日、ここでお姉ちゃんは亡くなっていた。
お婆ちゃんも親戚の人達も私には何も話さなかったけれど、まわりからいくらでも噂を聞かされた。
お姉ちゃんはストーカーに殺されたって。
お姉ちゃんを守ろうと必死に止めに入ったパパもママも殺された。
お姉ちゃんは滅多刺しだったって。
可哀想なお姉ちゃん。
まだまだ生きていたかっただろうに。
パパもママも無念だったよね。
2人は刺された後も必死に這いつくばって男を止めようとした形跡があったって、聞いたよ。
ごめんね、パパ、ママ、お姉ちゃん。
私だけが生き残って、
ごめんね。
「ごめんね……」
そう、ぽつりと言葉がこぼれた瞬間、
カーテンの隙間から漏れる光がリビングの奥を照らした。
微かな光の線の先には、
私がずっとずっと、
会いたかった、
「涼太……」
涼太がいた。
私は祖母に引き取られ、周りから見たら普通の日常を送っている。
あの事件の後、涼太の家族は引っ越していった。
引っ越し先は誰にも告げず夜逃げ同然だったらしい。
涼太は14歳未満だった事もあり、児童自立支援施設に送致されたと噂で聞いた。
ずっと忘れられなかった。
ずっと後悔してた。
あの時、
涼太の手を払い除けた事を。
あの時の涼太の顔が、
ずっと忘れられない。
久しぶりに全速力で走った。
まわりの目なんて気にならない。
息が上がる。
汗が流れる。
ゼエゼエと肩で息をする。
「……変わってない」
久しぶりの家、
私の家、
私が、パパとママ、お姉ちゃんと幸せに過ごしていた家を前に、私は立ち尽くす。
息を整え、深呼吸する。
さっき電車から見た時は涼太は門の前にいた。
涼太、どこにいるの?
隣の家を見る。
かつての涼太が住んでた家だ。
あんなに笑い声が、笑顔があふれていたこの2軒の家は、今は暗く淀んでいる。
事故物件だ、買い手がいないのも当たり前だ。
6年振りに家のドアに触れた。
開くわけはないけれど、ぐっとドアを押してみる。
カチャ……
……え?
思わずドアから手を離す。
少し開いたドアはまた固く閉じられる。
……どうして?
何で、
開いてるの……?
買い手も借り手もつかない私の家だったこの家は、
今は不動産が管理しているはずだ。
当然、防犯対策のため鍵は玄関ドアも窓もしっかりとしているはずなのに。
もう一度深く深呼吸して、ドアを押す。
するとドアは昔のように、
私を招き入れるように開いた。
ドクドクとうるさい胸をぎゅっと押さえてゆっくりと中に足を踏み入れる。
……ああ、私の家だ。
もう、全ての物は処分されてしまって何もない、ガランとした家だけど、
確かに私が過ごした家だ。
涙が出そうだ。
だけど泣いてる場合じゃない。
そのまま私は廊下を歩いてリビングの前にいく。
リビングのドアの前で止まる足。
いっそう早く強く音を立てる心臓。
背中に冷たい汗が流れる。
ドアに触れる手は震えている。
……あの日、
このドアを開けた私は……。
吐き気がする。
気持ち悪い。
でも、このまま帰る訳にはいかない。
だって、
涼太がいるかも知れない。
震える手でリビングのドアを開ける。
ぎゅっと閉じた目を開けると、
あの日と同じ、カーテンは閉められ暗いリビングが目に映る。
あの日、ここでお姉ちゃんは亡くなっていた。
お婆ちゃんも親戚の人達も私には何も話さなかったけれど、まわりからいくらでも噂を聞かされた。
お姉ちゃんはストーカーに殺されたって。
お姉ちゃんを守ろうと必死に止めに入ったパパもママも殺された。
お姉ちゃんは滅多刺しだったって。
可哀想なお姉ちゃん。
まだまだ生きていたかっただろうに。
パパもママも無念だったよね。
2人は刺された後も必死に這いつくばって男を止めようとした形跡があったって、聞いたよ。
ごめんね、パパ、ママ、お姉ちゃん。
私だけが生き残って、
ごめんね。
「ごめんね……」
そう、ぽつりと言葉がこぼれた瞬間、
カーテンの隙間から漏れる光がリビングの奥を照らした。
微かな光の線の先には、
私がずっとずっと、
会いたかった、
「涼太……」
涼太がいた。