敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
登場人物の気持ちを彼女に諭しながら、それは俺自身だろと自問自答する。いっそ気づいてもらえたらどんなに楽か。
だが、彼女は俺の苦悩には微塵も気づかず「〝彼〟の気持ちがわかる描写を追加しないと」なんて執筆しか頭にないことを言っている。
彼女の一挙手一投足に翻弄され右往左往する自分が情けない。
恋愛のれの字も知らないピュアな女性というのは百も承知。だが毎日得も知れぬ敗北感を味わっている。
これは……恋なのか?
認めたくはないが十中八九そうなのだろう。俺は人生を文学に全振りした天然の魔性にベタ惚れしているようだ。
――あの約束を、彼女は覚えていてくれるだろうか。
東京に戻る前日。彼女に唇を寄せて、触れないぎりぎりの距離を保って。
『いつか俺が担当を外れて、ひとりの男としてあなたの前に立てるようになったら――』
男として彼女と向き合える日はそう遠くない。それまでは一編集者として彼女を全力で支えるつもりだ。