敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
「五、六年前だったか……『壬生浪』が二〇〇万部の大ヒットを記録したときに、お食事をご一緒して以来かな?」

「あのときは素敵なお店に連れていってくださってありがとうございました! 本当に素晴らしかったです」

社長が用意してくれた店は人気の高級レストラン――などではなく。

「担当だった吉川くんに、君の好みを聞いたんだよ。そしたら流行のレストランやムードのあるバーは興味がないっていうじゃないか。生粋の文学好きだと聞いて、ね」

案内されたのは都内にある一見ごく普通の料亭。

が、なんとそこは、かつてロマン主義と謳われていた文豪たちがこぞって通ったという歴史ある和食料理店だったのだ。

社長の粋なチョイスにテンション爆上がりで文学を語った覚えがある。社長が編集長を務めていた時代の話や、湾先生の創作裏話で盛り上がったなあ。あんなに楽しいお食事会は初めてだった。

隣で私を『ムードのあるバー』に誘った神宮司さんが引きつっている。

「その着物もよく似合っている」

私は「あっ」と慌てて姿勢を正す。このお洋服は誓野さんのお祖母様のもの――つまり、社長のお母様のものなのだ。

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