敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
「っ、ごめんなさい。なんでもありません」

いたたまれなくなって手を振ると、彼が困惑した表情のまま、ぽつりと呟いた。

「……俺の家に来る?」

自分でも口にして驚いたのか、手を口もとにあてる。言い訳のように「ええと――ここだと俺は行ったり来たりになるし、泊まるわけにもいかないし」と視線を彷徨わせた。

「俺の家ならずっと一緒にいられる。誰かに居場所が割れる心配もないから。……もし一人が心細いなら」

目を逸らして言い淀む彼。無茶を言った自覚があったのか、「――いや、ごめん。聞かなかったことに」とすぐに前言撤回する。

でも、私は再び彼のシャツを引っ張った。

「行きます。誓野さんの家」

ここにひとりでいるよりは鬱々としなくて済みそうだ。それに、わがままなのは承知の上で……誓野さんと一緒にいたい。

迷いなく言う私を、彼は少々驚いた顔で見つめたあと。

「……わかった。行こう」

そう言って再びボストンバッグを担ぎ上げ、私の手をしっかりと握りホテルを出た。



彼の自宅は出版社の近く、私の家からもそう遠くない場所にあった。

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