敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
彼は原稿を手にソファに座り、長い脚をゆったりとした所作で組んだ。鋭い眼差し。ページをめくりながら、たまにセンターパートの前髪をかきあげる。

なんて優雅なのだろう。控えめに言っても王子様みたいだ。もうちょっと遠くにいてくれれば目の保養にもなるけれど、近すぎて眩しい。

私は正面に座り紅茶を飲みながら、彼が原稿を読み終えるのをじっと待つ。

ページを最後までめくったところで彼はゆったりと睫毛を上下した。

「さすが石楠花先生です。日本語の美しさにまず圧倒されました。響きのいい言葉選び、繊細でロマンティックな表現、文字から色合いや質感が伝わってくるようです」

「あ、ありがとうございます……」

ってことは、大丈夫だったのかな? ホッと安堵しかけたとき。

「……ですが、失礼を承知で申し上げると、美しい環境映像を見ているかのようでした」

うっと空気を呑み込む。

技術はある。綺麗な文章は書ける。

でもキャラクターが心に残らない。心情が伝わってこない。感情移入できない。そう言われているのだとすぐに悟った。

「石楠花先生。……最近、恋愛されてますか?」

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