敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
男性がテキパキとした様子でダイニングテーブルに鍋や取り皿を運んでくる。今日のメニューは水炊きだそうだ。

私は開いていた原稿を保存もせずに閉じて――保存する必要がないほど進捗がなかったのだ――PCをシャットダウンし、テーブルに向かった。

ここは私、『石楠花みどり』こと、楠花翠(くすはなみどり)の自宅兼事務所である。

品川区にある高層マンションの二十五階で、広々としたリビングの一角は執務スペースになっている。

壁側の棚には参考文献がずらりと並んでいて、デスクの上にはノートPC。

リビングと執務スペースを分けなかったのは、執務デスクにかじりついたまま一日中動かなくなることがわかっていたから。だったら一番広くて便利な部屋で仕事をするべきだという結論に至った。

寝室は別室にあるが物置と化している。リビングのソファで寝る方が、移動時間が節約できて合理的だから。

そんな感じで、ワーカーホリックといえば聞こえはいいが、人として女性として破綻した生活を送っている。

俗にいう『干物女』なわけだが、罪悪感や葛藤はない。私はこの生活、延いてはこの仕事を気に入っているから。

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