敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
好きなことでお金が稼げて、たくさんの人の期待に応えられるとなれば、なおのこと頑張るしかない。

そんな私の職業は小説家。現在二十八歳で、年齢的にはまだまだ若手ではあるものの、作品が映像化されて大ヒットしたおかげでベストセラー作家なんて仰々しいふたつ名で呼ばれている。

「わあ。おいしそうですねえ」

ダイニングテーブルの中央に置かれた鍋からは湯気が上がっていて、透き通った金色のスープの中にぷりぷりとした鶏肉がたくさん敷き詰められていた。

人参は桜の形で、椎茸には紅葉のような六角の飾り切り。実に手が込んでいる。

お世辞抜きにおいしそうで、落ちていた気分が持ち上がった。しかし。

「先生に精力をつけていただきたいので」

悪意のない麗しい微笑みにいたたまれない気持ちになる。

進捗がないなんてとても口にできず「お気遣い感謝いたします」と張り付いたような笑みで応えた。

先週から、執筆以外に脳がない私の代わりに料理や掃除、ごみ捨て、生活品の調達など、あらゆる家事を引き受けてくれている彼は誓野勇(ちかいのゆう)さん、三十歳。

産休に入る前担当編集者に代わり着任した。

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