敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
そう相談されたのは、デビューして三年が経ったときだったか。昨年映画化した『壬生浪・煮売屋推理帖』が大ヒットして、続編の制作も決定し、印税がたくさん入る見通しが立っていた。

ファンから贈りものなども送られてくるようになり、学生のときから暮らしていたこの安アパートも手狭になっていたのだ。

「吉川さん、私、次に住むなら日本家屋がいいです。もしくは古民家とか借りられませんか? 文豪が暮らしていたみたいな……私のお給料じゃ無理ですかね?」

「金額的には問題ありませんよ。ただ一軒家は管理が大変ですからねえ。玄関前の掃き掃除とか、草むしりとか。ゴミ出しも早く起きてちゃんと出さないとご近所さんの迷惑になりますし」

「それは……無理かもです」

今でも頻繁にゴミ出しのタイミングを逃がし、玄関にゴミの山ができあがる。見かねた吉川さんが業者を呼び、ゴミを持っていってもらったこともあった。

言い訳としては、この頃、とにかく忙しかった。

ゴーストライターにお任せする案も出たけれど、私の名前で知らない誰かが書いた文章が世に出ていくなんて嫌だった。

だから私は、生活を破綻させてでも書き続ける道を選んだ。

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