敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
「ふたりは幼馴染でもあるから、大人の常識に囚われなくていいと思います。幼心のまま、ついおいしいサンマをひと口あげてしまった。しかし、冷静に考えてみたら、はしたなかったかもしれないと葛藤する」

もしもの物語を口にしながら、サンマの身を箸で摘まみ取り、私の口もとに持ってくる。

「いや、立場が逆ですけど」

「うら若き男女が同じ箸を使って食べる――当時にしては破廉恥かもしれませんね。俺たちはほら、うら若くはないので」

誓野さんがいたずらっぽい笑みを浮かべたまま、私の口もとから箸を下げてくれない。

……まあ、彼にとってみたら、間接キスなんてたいしたことはないでしょうね。

私だって恋愛未経験ではありますけども、御年二十八で間接キスどうこうなんて騒ぐつもりはありませんし?

食べろという圧に押し負けて投げやりにかぶりつくと、彼は満足そうに目を細めた。

「それで、翠さんの感想は?」

「そこで私の感想を聞きます?」

「カヲルになりきってどうぞ」

「……恥ずかしい、お父様には内緒、と思うんじゃないでしょうか」

ようやく箸を引っ込めた誓野さんがゆるっと微笑む。

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