敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
写真集より小説を買ってもらいたい。げんなりとして答えると、誓野さんはカメラのディスプレイから目線を外し、怪訝な顔をした。

「もしかして水着とか想像しています? 普段の姿だけでも充分ファンは買うと思いますよ。あなたをカリスマ視している女性も多い」

「カリスマ視、ですか」

思わず苦笑してしまったのは、私はそこまで価値のある人間ではないと自覚しているから。

「なんだか騙しているみたいで申し訳ないですねえ」

彼らが見ているのはメディアによって操作された『石楠花みどり』の偶像。本当の私じゃない。

楠花翠はもっとずぼらで、メイクもファッションも興味のないただの文学オタク。まともな恋愛のひとつもしたことのないこじれ女子なのだ。

「作品のイメージを保つ――最初はそういうものかと思ってましたけど。思った以上にメディアに露出する機会が多くて、ちゃんとした女性の振りをするのにも疲れてきてしまいました」

誓野さんだって、とっくに気づいているだろう。書くことに全振りした生活能力ゼロのどうしようもない女だって。

吉川さんの後任である彼が私の情報を引き継いでいないわけもない。

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