敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
「……撮影完了です。いい笑顔、取れました」

「え!? 今のバカ笑いしたやつですか?」

パタパタと草履を鳴らして誓野さんのもとへ行く。カメラのディスプレイを覗き込むと案の定、表情が崩壊した私が映っていた。

「うわあ、これじゃあファンは幻滅ですね」

どこからどう見ても知性は感じられない。しかし、誓野さんは満足そうに微笑む。

「俺は好きですよ。メディア用の綺麗な笑顔より、ずっと好きです」

おかしな人だ。吉川さんだったら絶対「証拠隠滅!」と言ってデリートボタンを押すのに。

……でも、悪い気分じゃない。

私は飛び石をぴょこぴょこと草履の爪先で踏んで縁側に向かう。スニーカーを履いている彼は足もとを気にしていないのか、土の上を堂々と歩きながら、カメラのディスプレイを確認している。

「翠さん。新作が完成したら、一緒にお団子食べに行きませんか?」

振り向くと、穏やかな表情の誓野さんがこちらをじっと見つめていた。

「行きたいです!」

あのお団子屋さんに行って、おばちゃんに挨拶をしてこよう。

成長した私を見て、きっと驚くことだろう。



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