敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
それを少しでも楽しい、幸せだと感じられるかどうか、試してみたいと思ったのだ。

「それに、誓野さん言ってましたよね。大切な人に振る舞う料理は楽しいって」

これまで、誰かのために自ら率先して料理を作ることなんてなかった。それをしたらどういう気持ちになるのか、興味が湧いたのだ。

「だから、今日は『石楠花みどり』ではなく、『楠花翠』が個人的に恩返しをします。……迷惑ですか?」

尋ねると、誓野さんはきゅっと唇を引き結び、真剣な顔をした。

「それは俺のことを大切に思ってくれているって受け取ってもいいですか?」

考えるより先に口が動く。

「もちろん。それだけ私は誓野さんに支えられてきましたから」

いつしか警戒心はなくなり信頼していた。

彼と過ごして三カ月経った今、誠実な人だと心から思える。

「だったら俺も、今日一日は編集者でなく……ひとりの男として翠さんに接しても?」

あらたまって尋ねてくる彼に、私は「もちろん」と頷く。

「では、今日だけはお互いの立場を忘れましょう。無礼講ってやつで。誓野さんも敬語は使わなくていいですよ」

思い切って提案すると、彼の表情から力が抜けた。

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