敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
そうならないのは、彼になら触れられてもかまわないと思えるようになったからだ。

「もう触れてますから、今さら気にしません」

「そうじゃなくて――」

彼が困惑した声をあげる。声の発生源が近づいてきて、私の耳のすぐ横で苦しそうな吐息が漏れた。

「もっと近づきたい」

熱のこもった囁きが鼓膜を震わせる。背中からゆっくりと手が離れ、私の両腕に触れた。

「許してもらえるなら……抱きしめたい」

再び耳の横で声がする。彼の真剣な表情が見なくても伝わってきた。

拒まなかったのは、彼がふざけてこんなことをする人ではないと知っているから。

私に筆を走らせるために恋人ごっこをしているわけでもない。本心からの望みだとわかったからだ。

「嫌だと感じたら、すぐに言って。俺はあなたが嫌がることは絶対にしないから」

そう前置きすると、うしろから私の胸もとに腕を回した。

ゆっくり、ゆっくりとその腕を閉じていく。

振りほどきたくなったらいつでもできるように、そんな優しさを感じる。

「……怖くない? 怯えすぎて、フリーズしてない?」

「はい。嫌じゃない、です」

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