敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
……あれは三葉社の取締役だな。へえ、ライバル企業も招くのか。向こうはファインピクチャーズ――子会社化を検討している映像制作会社だ。

そのうしろに並んでいるのは作家の、確か初代受賞者の湾先生だ。父の写真で見たことがある。彼には案内をつけるべきだな。

「すみません。吉川さん」

うしろにいた、先ほど名前を教えてもらったばかりの文芸編集部の女性に呼びかける。

「はい。なにかありましたか?」

「あちらに作家の先生がお見えです。ご案内した方がいいかと」

こっそりと耳打ちすると、作家を見た彼女が「あっ」という顔をした。やはり賓客のようだ。

「教えてくれてありがとう! 助かったわ」

彼女は笑顔で作家のもとへ駆け寄って挨拶をすると、彼を会場へ案内した。判断は正しかったのだと安心する。

そうやって観察を続けているうちに、北桜出版や文芸編集部が懇意にしている人物相関が見えてきて、有意義な時間になったとひとり満足する。

式が始まり受付が落ち着いた頃。ひとりの女の子がパタパタと駆けこんできた。

自分よりも明らかに年下で、真面目そうなリクルートスーツを着ている――というか、スーツに着られている。

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