敏腕編集者の愛が重すぎて執筆どころじゃありません!~干物女な小説家は容赦なく激愛される~
彼女は受付の前で真っ黒なビジネスバッグをがさごそとあさりはじめ「ああっ、ない!」と悲鳴をあげた。

「あの、すみません。招待状を忘れてしまって……名前だけでも入れるでしょうか……?」

彼女もゲストだろうか? どこかの企業の新入社員――にしたって、随分と若いようだし初々しい。スーツを着ていなければ高校生に見えるだろう。

「お名前をうかがってもよろしいですか?」

「え……どっちの名前? シャクナゲ……? あ、いえ、クスハナです。クスハナ、ミドリ……」

そのとき。うしろにいた吉川さんが軽快な声をあげた。

「ああ、石楠花先生ですね! ようこそいらっしゃいました!」

女の子がパッと表情を明るくする。

「吉川さん! 先日は大学の近くまでご挨拶に来てくださってありがとうございました」

「とんでもない。学業もお忙しい中、お時間を作っていただいてこちらこそ助かりました」

「あ、すみません、招待状を忘れてしまって……私、入れますかね?」

「もちろんですよ。石楠花先生は本日の主役ですから。さあ、どうぞこちらへ」

吉川さんが腰を低くして彼女を会場に連れていく。

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