【手直し中】野いちご源氏物語 一七 絵合(えあわせ)
【2026.08.22~】手直しを始めます。一部読みにくいところがあります。ご了承ください。
 (みかど)母君(ははぎみ)である入道(にゅうどう)(みや)は、亡き六条(ろくじょう)御息所(みやすんどころ)姫宮(ひめみや)入内(じゅだい)なさるのを待ち遠しく思っていらっしゃる。
 源氏(げんじ)(きみ)は、姫宮を二条(にじょう)(いん)にお移ししてから入内させるおつもりだったけれど、やはりそれはおやめになった。朱雀(すざく)(いん)も姫宮との結婚をお望みになっている。(あに)(いん)のご希望に(そむ)くことが恐れ多くて、(おもて)()って入内のお世話をすることはなさらない。
 とはいえ、ご両親どころか頼りになる親戚(しんせき)もいらっしゃらない姫宮のお世話ができるのは、源氏の君だけだった。父親代わりになってだいたいの準備はしておあげになる。

 朱雀院はとてもお(くや)しい。執着(しゅうちゃく)するのも世間(せけん)(てい)が悪いので、姫宮の入内が決まってからは手紙もお送りにならなくなった。
 ところが入内当日、立派な着物や家具、お(こう)などが姫宮に届いた。源氏の君は姫宮の屋敷にいらっしゃる。院は源氏の君の目に()れることを見越して、豪華なお祝いの品を用意なさっていたらしい。わざとらしい贈り物だった。
 (くし)を入れた美しい箱に姫宮への短い手紙がつけられている。
「あなたが斎宮(さいぐう)として伊勢(いせ)へ行かれるとき、別れの儀式(ぎしき)で髪に櫛を()してあげましたね。斎宮が交代するのは帝が代わるときですから、『あなたが都に戻る日が来ませんように』というお決まりの呪文(じゅもん)(とな)えなければならなかった。それを神様は覚えていらして、私とあなたを近づけまいとなさるのでしょうか」

 源氏の君は兄院に申し訳なくお思いになる。
(かな)わぬ恋がつらいことは私が一番よく分かっているはずなのに、恐れ多くも院をお苦しめしてしまった。八年も前から姫宮に好意を寄せていらっしゃったのだ。姫宮が伊勢から都にお戻りになって、さぁこれで(きさき)にできると思われただろうに、それを私がかすめ取って帝のお妃にしてしまった。
 帝の(くらい)()りて(さび)しくお暮らしなのだから、さぞかし(うら)めしくお思いだろう。私ならとても()えられない。姫宮を入内させようなどと私が思いつかなければ、院をこのようにお悩ませすることはなかった。いろいろあったけれど、お優しい兄宮(あにみや)でいらっしゃるというのに>

 しばらくじっと考えこんでから、姫宮にお尋ねになった。
「どのようなお返事をお書きになりますか。この他にもお手紙があったのでは」
 源氏の君のご想像どおり、院からのお手紙は他にもあったけれど、女房は気まずくてお見せしない。きっと(うら)(ごと)のお手紙だったのでしょうね。
 姫宮は返事を書きづらくお思いだった。
「お返事なさらないのはいかにもご冷淡(れいたん)で、恐れ多うございます」
 女房たちが言うのを聞いて、源氏の君も、
「それは絶対にいけませんよ。形だけでもお書きなされませ」
 とお(すす)めになる。

<こういうお手紙にお返事を書くのは恥ずかしい。しかし、儀式でお目にかかった(みかど)時代の朱雀院は、とても上品でお美しかった。私を伊勢へ行かせることを()しんで泣いてくださったのだ。幼心(おさなごころ)にもお優しい方だと感動したことを覚えている。そう、あのときはまだ母君がお元気で、一緒に内裏(だいり)に上がってお世話をしてくださった。まるで昨日のことのようだけれど>
 姫宮はさまざまなことを思い出して、
「『都に戻るな』と(おお)せでしたのに戻ってまいりました。あの呪文の(はかな)さが今はかえって悲しゅうございます」
 とだけお書きになったらしい。源氏の君は返事の内容が気になったけれど、さすがに見せてほしいとはおっしゃらない。
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