野いちご源氏物語 一七 絵合(えあわせ)
 絵合(えあわせ)の後、源氏(げんじ)の君(きみ)は須磨(すま)と明石(あかし)の絵巻(えまき)を入道(にゅうどう)の宮(みや)におあげになった。宮は、源氏の君が都を離れていた間の絵をもっと見たいとおっしゃったけれど、
「それはまた、おいおいお目にかけましょう」
 とだけ源氏の君はお返事なさった。

 帝(みかど)も絵合に満足なさったご様子なので、源氏の君はうれしくお思いになる。こういうちょっとした催(もよお)しでも、源氏の君はいちいち斎宮(さいぐう)の女御(にょうご)の味方をして勝ってしまわれる。権(ごん)中納言(ちゅうなごん)としては苦々しい。
<我が家の女御の立場が弱くなっていくのではないか。しかし梅壺の女御が入内(じゅだい)なさるずっと前から、こちらの女御は帝に愛していただいている。それは今も変わりないのだから、中宮(ちゅうぐう)に選ばれることを諦(あきら)めてはいけない>

 こうして源氏の君は、文化の面でも華やかな時代をつくっていかれる。それでも世の中を儚(はかな)いものと思うお気持ちは消えない。
<帝がもう少し大人になられたら、やはり出家(しゅっけ)しよう>
 ご決意は深い。
<若いうちから高すぎる位(くらい)や官職(かんしょく)をいただいてしまった。こういう人は長生きできないものだ。とっくに死んでいてもおかしくないが、須磨へ行った不幸とひきかえに少しだけ寿命(じゅみょう)が延(の)びているのだろう。このままでいればきっとすぐに寿命が尽(つ)きる。出家して位を返上(へんじょう)し、仏教の修行(しゅぎょう)をして長生きを祈ろう>

 そう考えて、嵯峨(さが)という山里(やまざと)ののどかなところに、修行のためのお堂(どう)をおつくりになる。仏像(ぶつぞう)やお経(きょう)の準備も始めていらっしゃる。しかし、
<舅(しゅうと)大臣(だいじん)家で育てられている若君(わかぎみ)はまもなく元服(げんぷく)、明石(あかし)の姫はもうかわいらしく話す年になった。子どもたちを思いどおりに世話したい>
 というお考えもあって、今すぐお子たちと縁(えん)を切るのは難しい。だとすると、どうして急いでお堂などおつくりになっているのかしら。
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