血だまりに咲く。 ~序
驚いて息を忘れた。その声が桜井さんだったことが、じゃなく、桜井さんとここで会うなんて思いもしてなかったことにだ。

「あの、・・・どうしたんですか?」

やっとのことで口からひねり出す。

「近くまで来たついでだ。今日は(かなめ)の月命日だろう」

「わざわざありがとう、ございます。兄さんも喜びます」

本当に憶えていてくれるだけでわたしも嬉しい。今夜にでも連絡しようと思ってたから見透かされたのかと、余計に驚いた。奇跡みたいな偶然ってあったんだ。

命日が近付くと電話でわたしの様子を訊いてくれたり、欠かさずお墓に参ってくれるのは若とこのひとくらい。スーツ姿で横に立った桜井さんは短く黙祷を捧げ、こっちを見下ろして目を細めた。

「晄から聞いたぞ。名取を出るらしいな」

「あ・・・はい。今日アパートも決めてきたので、兄さんに報告しに・・・」

どうしよう。桜井さん、わたしの独り言をどこまで聞いたんだろう。・・・穴があったら一生引きこもってたいよ兄さん・・・。

「お前の本心か?俺には、香西があの家から離れたがっているようには見えなかったがな」

答えに詰まった。視線を合わせられない。自分から白状してるようなものだった、そうじゃないって。
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