血だまりに咲く。 ~序
ところどころ渋滞にはまりながら、小一時間で郊外の市営霊園に着いた。ここに来るのは命日とお盆、お彼岸くらいで、手向けた花が見る影もなくなってるのがいつも申し訳なかった。

園内の売店で花とお線香を買い、水汲み場でバケツに水を汲んで、区画の番号を辿り兄さんのお墓へ。

あの時は何をどうすればいいかも分からず、気が付いたら焼き場から戻った四角い包みが目の前にあって、若に連れられて骨を収めて。

「兄さんあのね、若が結婚するんだよ」

風に乗ってお線香からたなびく白い煙り。活けた花々がやんわり揺れる。

「それで世話係はいらなくなるから、名取の家を出ることにしたんだ。住むところも決まったし、仕事もなんとかなりそうだし大丈夫、ひとりで生きてくよ」

施設にいたころの写真は何枚か残ってるけど、大人になってからは兄妹で撮ることもなかった。記憶の中の兄さんはおぼろけだ。なんだかいつも笑ってる。

「最初は兄さんの代わりに若の役に立とうって思ってたのに、いつの間に欲張りになっちゃったのかな。・・・だからバチが当たったんだよ、きっと。どこにでも行っていいって・・・言われちゃった」

自分を誤魔化すように、涙が落ちそうになるのを我慢して小さく笑った。

「だったら俺のところに来るか」
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