血だまりに咲く。 ~序
その瞬間の、味わったことがない感覚を考える余裕はなかった。『来い』という言葉に殴りつけられたような衝撃に。

俺のところ?・・・江藤組に?戸惑いながらおずおずと顔を上げる。行き場がない自分を憐れんで、拾ってくれるって意味なんだろうか。

「あの・・・でも、家事の手伝いしかできないし、ぜんぜん役に立てないです、よ」

気遣いは嬉しかった。香西要の妹というだけで、これ以上は心苦しい。

「俺の世話ができれば十分だ、報酬も払う。悪い話じゃないだろう?親父と名取に筋は通しておく。明日迎えをやるから、帰ったら荷物だけまとめておけ」

・・・・・・・・・。

お構いなしに話が進んで状況が飲み込めない。明日?どこへ?桜井さんの世話って、え?・・・え?

「あの・・・っ桜井さん、わたし仕事も見つけて、だから大丈・・・!」

「引っ越し先はどこで決めた?」

遮るように切れ長の眼が上から細まって、ヘビに睨まれたカエル状態。不動産屋の名前を告げると、桜井さんは上着の内ポケットからスマホを抜き取って電話をかけた。

よく知った風な挨拶を交わしたあと、「ところで」とおもむろに切り出す。

「名取の紹介で付いた客がいたはずだな。ああ・・・、その女だが俺が引き取ることにした」
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