血だまりに咲く。 ~序
若と若姐さんの日取りが決まった。祝いの席は、仲人を引き受けた上役の江藤(えとう)組の仕切りで、馴染みの料亭を貸し切るんだそうだ。

名取の家も迎える準備でどこか空気が慌ただしい。リフォーム業者が出入りしたり、普段はあまり見ない客も増えた。

組長にも姐さんにも独り立ちすることは伝えてあって、保証人なんかが要らなくても平気な物件をいくつか紹介してもらえたうえに、支度金まで。近い内に引っ越し先を決めてくるつもりだ。

仕事もあてがない訳じゃない。長崎さんやほかの人達もあれこれ世話を焼いてくれる。・・・ちょっと意外だった。そんなに可愛がられてた風でもなかったから。

「テン、江藤さんが来たってよ!茶ァだ、茶ァ!」

口は乱暴だけど、下の者の面倒見はいい中川さんがわたしを見つけて風のように去っていく。

江藤の組長さん・・・ということは、きっと仲人の件なんだろう。思いながら胸の奥がチクチクした。この頃ずっとこんな感じだ。

「失礼します」

急いでコーヒーを用意して応接間の扉をノックする。入って右手のソファに腰かけてたのは、姐さんと若。テーブルを挟んだ向かいに江藤組長と若頭補佐の桜井さん。

「香西か、元気そうだな」

「はい。桜井さんも」
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