血だまりに咲く。　～序
その日は、朝から自由に出かけていい許可をもらった。買い出し用の車を借り、午前中に堅気のお客は来なさそうな小さい不動産屋で引っ越すアパートの契約を済ませ、鍵も渡された。

カーテンも布団も、冷蔵庫も洗濯機も、一から買いそろえないといけない。弱気になってる場合じゃないけど、名取の家での生活がどんなに恵まれてたか、つくづく思い知る。

道すがら大型の家電量販店に寄り、端から見て回って、無いと困る必需品を取りあえずスマートホンに残した。予算は限られるし、あとは１００円均一の店とホームセンターでどうにかなるはずだ。

お昼は、駐車場が広めなコンビニでおにぎりとサンドイッチを買い込み、汚さないよう気を付けながら車の中で食べた。飲食店にひとりで入る勇気はちょっとない。外で食べる機会が少なかったから慣れてないし、恥ずかしい。なんとなく。

同じ歳の娘(こ)達と比べたら、どこかの離れ小島で生活してたのと同じくらい、流行やみんなが知ってる常識(ふつう)にうといんだろう。

今さら周りに合わせて自分を変えようとは思わない。世間の片隅でひっそり生きていけたらそれでいい。

ペットボトルのお茶を喉の奥に流し込んで、シートベルトをし直した。兄さんのお墓がある霊園まで、もうひと走り。
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