平安物語【完】
「こちらへいらっしゃい。」
尚仁さまに腕を引かれて渋々歩くと、小さな泉に着きました。
ほとりに腰を下ろして初めて、私も尚仁さまのように、桃色の薄い着物を一枚だけ着ていることに気付きました。
尚仁さまに促されて泉を覗き込みますと、
「うそ…」
こまかな皺が無くなりつやつやとハリのある肌に戻っていて、二十代前半の顔になっていました。
尼そぎにしていたはずの髪も、長く伸びています。
ふと手元に目を落とすと、手の皺も綺麗に無くなっていました。
「とてもお美しいですよ。」
ふと、頬に口づけられました。
また涙が溢れてきます。
「身分も何も無くなって…新しい私達の始まりです。」
コクコクと、ただ頷くことしかできません。
「愛していますよ。
出会った頃からずっと、心から。」
「愛しています。
愛しています愛しています!
尚仁さま…っ」
久しぶりに、深く口づけを交わしました。
周りには、ただただ穏やかな風が吹いていました。
