カラフル
 美術準備室を出た後、自宅とは反対方面の電車に乗って美術館を訪れた。何かパネル制作のヒントがあればと閉館まで館内を見て回り、その後近所のスーパーで買い物をして、薄暗くなった帰り道を早足で進む。

 家に着いたのは20時前だった。美術館で少し長居をしすぎたみたいだ。


 両手に抱えていたスーパーの袋をテーブルの上に置くと、制服の上からそのままエプロンを身に付ける。

「おかえりー。遅かったね」

 どうやら実行委員会のほうが早く終わったらしい。ソファーに座って雑誌を読んでいた蘭が顔だけひょこっとこちらに向ける。


「ごめん、ちょっと色々していたら遅くなった。今から作ったら時間かかると思って、お惣菜買って来たんだけどいい?」

「いいよー」

「味噌汁とサラダだけ作るから少し待って」

 袋の中から取り出した惣菜を電子レンジに入れて、袋に残った食材を冷蔵庫に移す。


「何か手伝おっか?」

 気を利かせて蘭がソファーから立ち上がる。


「いや、大丈夫。1人でやったほうが早い」

 レタスを洗いながら、せっかくの蘭の申し出をぴしゃりと断る。気持ちは有難かったが、料理下手な蘭が手伝うと余計に手間も時間もかかる。

「だよねぇ」

 何もせずに待つのも気が引けてただ手伝うと口にしただけだったのだろう。蘭は怒ることもなく納得したように、うんうん、と頷いて再びソファへと戻っていった。
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