隣の席の室井くん①
12.ミシンとギターと



        *   * *




「ねぇ母さん、ミシンどこにしまってあるの?」

「ミシン?押し入れの奥だけど、そんなもん何に使うのアンタが」



リビングで相変わらず煎餅をバリバリ頬張るエプロン姿の母さんが肩肘つきながらテレビを観ている。


・・・我が母ながらに
昔ながらなアニメとかでよく見る典型的な主婦である。


娘として若干悲しいよ。

そんなアタシは立派に母さん似という事実が更に悲しい。自分の行く末を見ているようでいたたまれませんよ。


とりあえず、こうはならないように全力で気をつけていこうと密かに決心しつつ気を取り直して母さんの問いに答えを返す。


「文化祭だよ文化祭、衣装縫わなきゃいけないんだよ」


母さんをなるべく視界に入れないようにして
アタシは押し入れのある客間に向かう。


リビングの隣にある和室の客間に足を踏み入れると、畳独特の匂いが鼻につく。


客間とは名ばかりで
実際はほぼ荷物置場と化している部屋は、あちこちに使われていないガラクタが所狭しと放置されている。



「いだっっ!!」



足元に乱雑されている段ボールにあちこちぶつけながら進んで行った奥、押し入れの中からやっとの思いでミシンを見つけ出した。



「あった」



何年も使われず放置されているからか、ホコリを被った白いミシンを押し入れから引っ張り出すも、



「はーぁ・・・めんどくさ」



口から出るのはため息ばかり。


買い出し班が購入してきた布に、手芸部の矢島さんが採寸通りにパースを引いてくれたものが今アタシの手の中に。


女子はそれぞれ分担して衣装を縫わなければならないのだ。



「あんた、裁縫なんて出来たんだっけ?」


いつの間に入ってきたのか背後から母さんが煎餅片手に登場した。


いやいや、せめて
煎餅は食べ切るか置いてくるかしてくれよ。



「出来るわけないじゃん」


自慢じゃないけどアタシの手先の不器用さは異常だ。


小学生の時とか、家庭科の時間とかあったじゃない?その時にエプロンを縫うとかいう高度なことをやらされた時も、アタシはエプロンとは形容しがたいなんとも言えないものを作り上げた。


「日吉さん・・・玉結びがね蝶々結びになってるわよ」


と、家庭科の先生にため息をつかれたのを覚えている。


そんなアタシに精一杯の優しさなのか、はたまた、被害最小のためなのか…皆がそれぞれ2〜3着担当する中、アタシに与えられた分担は1着。


有り難いんだけども
ある意味悲しくもある。



「それ誰が着るの?」


アタシの手に握られた白い布を覗き込みながら母さんがバリバリという煎餅音と共に呑気な声を出す。



「適当に振り分けられたからアタシも分かんないんだよね」

「ふーん、翔くんじゃないといいわね」

「・・・なんでさ」

「あんたの不器用さを目の当たりにしたら、あんた一発でフラれるわよ」

「・・・・・・」



否定できない



願わくば、室井くんだけにはアタシが縫った衣装が当たりませんよーに。


切に願いたい。

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