歪んだ月が愛しくて3



ありったけの殺意を込めて陽嗣先輩を睨み付けた後、俺と未空、会長と陽嗣先輩の二手に別れそれぞれ乗って来た車に乗り込み新たな目的地へと向かって走り出した。
車内は行きと同様に運転手、助手席には焼きそばパンを買って戻って来た葉桜先生、そして後部座席には俺と未空が乗っている。



「ねぇ、この車ってどこに向かってんの?」

「御大様の元に向かっております。先程連絡があり昼食を共にしたいとのことでしたので今現在御大様が訪問されている支援先へとお連れ致します。ですので立夏様には後程焼きそばパンを召し上がって頂きたいと存じます」

「いや、まあ…それはいいんですけど…、そんなところに俺達がお邪魔してもいいんですか?」

「勿論でございます。立夏様だけでなくより多くの人間に足を運んでもらいたい場所ですから」



より多くの人間に?
そんな場所が本当にあるのだろうか。
葉桜先生の意味深な言葉に少しだけ身構えた。



「それに未空坊ちゃんにとっては縁のある場所ですからそう言った意味でも行って損はない場所だと思いますよ」

「……まさかっ」



その言葉に未空は酷く驚いた表情を見せた。
ガバッと身を乗り出し葉桜先生が座る助手席のシートを強く掴んで離さない。
プルプルと小刻みに震える手は次第に観念したかのようにダランと下を向き険しい顔で窓の外を見つめていた。



それから30分ほど車を走らせて運転手にドアを開けてもらい車外に出るとそこはとある教会の前だった。
教会…、でいいのだろうか。歴史を感じる煉瓦造りの建物に三角屋根の天辺に十字架を掲げたこの場所は一見教会のように見えるが、よく見ると左右に建物が続いており中央のアーチ状の入口の向こうから複数の子供の声が聞こえて来る。公園や屋外テーマパークにも見えなくはないが。



「先生、ここって教会ですか?それにしては規模が大きいような…」

「今目の前にある建物は教会の入口ですが、向かって右側には児童養護施設、左側には保育園が併設されております」

「あ、だからこんなに大きいんですね。ここにまもちゃんがいるんですか?」

「左様でございます。御大様の元にご案内致します」



葉桜先生は俺達を先導するため前に出る。
そんな葉桜先生の後に続いて足を踏み出そうとした時、ふと何を思ったのか未空のことが気になって振り返ると未空は未だに険しい顔のまま屋根の上にある十字架を睨み付けていた。



「……未空?」

「え、あ……、何?」



俺を見る目は優しい。
でも無理して笑ってるのはバレバレだ。
目は笑ってるのに口元が引き攣ってるのことに本人だけは気付いてない。



「一緒に行こう」

「う、うん…」



この先に何があるのか、何が未空をこんな顔にするのか今の俺には分からなかった。
でも俺の直感が訴えていた。何があってもこの手を離してはいけないと…。



葉桜先生の案内で教会内部に通されると、祭壇の前でいつもの和服姿に身を包むまもちゃんと黒と白を基調とした修道服を身に纏う高齢のシスターが俺達の到着を待っていた。



「おお、待っておったぞ2人共」

「遅くなってごめんね、まもちゃん」

「何、急遽呼び出したのは儂の方じゃよ。遊んでいたところすまなかったの。昼食も兼ねてリリーに紹介したい者がいるんじゃが」

「俺に?それって…」



チラッと、まもちゃんの後ろにいるシスターを視界に入れる。
すると俺に視線に気付いた彼女はニコッと穏やかな笑みを浮かべてまもちゃんの横に立った。



「初めまして。私はこの教会でシスターを務める月森と申します。お会い出来て光栄です、リリー様」

「こ、こちらこそ初めまして、藤岡立夏と………へ?リリー?」

「お噂は予々。貴方様のことは以前から存じておりましたので今日お会い出来るのを楽しみにしていたんです」

「あの、まさかその噂の出所って…」

「会長さんが仰っていた通りとても愛らしい方ですね。一目でリリー様だと分かりました」



目元の皺を更に深く刻み毒気のない笑みを浮かべるシスターに何も反論することが出来なかった。
代わりにシスターの横にいるまもちゃんをジロッと軽く睨んだ。



「ま〜も〜ちゃ〜ん」

「何じゃ?そんな顔しても可愛いだけじゃぞ」

「話を逸らさない!全く無関係の人にまであることないこと風潮して油断も隙もないんだから!そんなに俺を辱めたいの!?」

「何を言う。そんなわけなかろう。そもそも儂は悪戯に風潮してるのではなく事実をありのまま伝えてるだけに過ぎん。嘘を言ったならまだしもこんなにも愛くるしいリリーに可愛いと言って一体何が悪いんじゃ?」

「くっ、とうとう開き直ったな…」

「儂は嘘が吐けない素直な性格じゃからの。未空もそう思うじゃろ?」

「え、あー……はい」



曖昧な返答をする、未空。
その理由は急に話を振られたからだけじゃない。



「未空坊ちゃんもお久しぶりですね。お元気でしたか?」

「園長先生…、お久しぶりです」



歯切れが悪くいつもの覇気もない未空は居心地が悪そうに視線を下げて苦笑する。
シスターを前にしてから…、いや車の中で葉桜先生と言葉を交わしてから未空はずっとこんな調子だった。
何やら深く考え事をしているようで心ここに在らずの方針状態。こんな状態が続けばいくら俺でもある程度察しが付く。


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