歪んだ月が愛しくて3
「はぁ、食った食った〜」
「確かにいつも以上に食べてたね。昨日までは別人かってくらい少食だったのに」
「何かよく分からないけどいつも以上に腹減ってたんだよね。この屋敷に来て初めて腹一杯食べた気がするよ」
「……気が抜けたんじゃない?念願のお祖父様呼びが出来て」
「だとしたら俺ってチョー単純じゃない?」
「それが未空の良いところじゃん」
「嘘でしょう!?他にはないの!?」
本邸での夕食を終えた俺は別邸に戻る未空に付いて中庭を歩いていた。
すっかり日が暮れ庭園の花々や噴水を照らす照明の光が時折顔に直撃して目を細める。
「てかみーこの奴、また夕食の時間に間に合わなかったね。今日は珍しくお父様がいたから久々に皆で飯食えると思ったのに」
「そ、だね…。やっぱり昼間のあれが良くなかったんじゃない?」
「あれってお化け屋敷のこと?でもあれはお母様が行けって…」
「確かにそうだけど会長がお化け屋敷に来なければその分早く仕事を片付けられたのかなって思ってさ」
「……リカはみーこに来て欲しくなかったの?お化け屋敷」
「そうは言ってないよ。ただ俺が未空達と逸れたせいで会長には手間取らせちゃったから…。だから碌に息抜きすることも出来ず時間を浪費させちゃってたら申し訳ないだろう?」
「そんなことないよ。だって本当は俺がリカを捜しに行こうとしたのに自分が行くって言い張って俺やスタッフの話全無視して突っ込んでったんだから。どうせあわよくばを狙ってたんだよ」
「あわよくばって?」
「それはその…、俺の口からは何とも…」
急に口籠もる未空に首を傾げると。
「と、兎に角、リカが気に病むことはないからね!リカを捜しに行ったのはみーこの意志だし仕事が終わらないのもみーこのせい!はい論破!」
「いや、全然論破出来てないけど」
「いいから!そう言うことにしといてよ!」
そんな大声を出したら中庭を警戒中の近衛隊員がびっくりするでしょうが。
いくら勝手知ったる屋敷内だとしてもこの前のセクハラ隊員のせいで屋敷内の警備が厳しくなってんだから未空にはもう少し空気を読んで欲しいものだ。まあ、その元凶である俺が言っても説得力ないけど。
「皆で食事したかったってことは会長に何か用事でもあったの?だったら別邸に戻らずに本邸で待ってたら?」
「いや、そう言うわけじゃないんだけど、お父様は帰って来たのに何でみーこは帰って来ないのかなって思っちゃって。特に意味はないんだ。それにどっちかって言うと今はみーこが傍にいない方が話し易いから」
「話?話って一体…」
「俺、リカに話したいことがあるんだ」
あ、この感じ…。
もしかして未空は俺に…―――。
「聞いてくれる?」
まもちゃんと向き合っていた時と同じ真剣な眼差しが真っ直ぐに俺を見つめている。
そんな未空にイエス以外の言葉は出て来なかった。
「聞かせて、未空のこと」
ああ、漸く腹を決めたらしい。
次は俺が未空の覚悟に応える番だ。