歪んだ月が愛しくて3
そんなある時、俺は施設内で起きた窃盗事件の犯人として疑われた。
同じ施設内に居住する子供の部屋から財布が無くなったと言うもので、当然俺は何もしてないので無罪を訴えた。でも普段から学校に行っていないことと財布を盗まれた子供からよく悪口を言われていた俺がそのことを恨んでやったに違いないと盗まれた子供が強く主張したことで俺犯人説が浮上したのだ。
「お前がオレの財布を盗ったんだろう!分かってんだからな!」
「ぼくじゃないよ」
「嘘吐け!じゃあお前以外に誰がオレの財布を盗むって言うんだよ!お前しか考えられないだろう!」
「それでも、やってないものはやってないから…」
財布を盗まれた子供の主張に俺は「やってない」としか言えなかった。元々同年代の子供より口数が少なく碌に言葉を習っていない俺はどうすれば身の潔白を証明することが出来るのか分からなくて同じ言葉を繰り返すばかり。身の潔白を証明する言葉なんて俺に持っていなかった。
そんな俺を犯人と決め付けるような疑いの眼差しが四方から向けられる。どうせ俺の言葉に耳を傾けてくれる人なんていやしない。俺が他人を信用出来ないようにきっと周りにいる連中も俺のことなんて…、そんな時だった。あの声が聞こえたのは。
「証拠は?」
その声が聞こえたと同時に姿を現したのは尊だった。でも今日は1人ではなく前に園長先生と話してた男の人と一緒だった。
突然の2人の登場に困惑する中、財布を盗まれた子供だけが逸早く尊の言葉に便乗した。
「そ、そうだ!やってないって言うなら証拠を見せ…「違ぇよ」
「へ…?」
「コイツがお前の財布を盗んだって言うならその証拠を見せろって言ってんだよ」
驚いた。
誰もが俺を犯人だと決め付ける中、部外者であるはずの尊だけが俺の言葉に耳を傾けてくれた。
「だ、だって、コイツは不登校で学校にも行ってないから誰よりも盗むチャンスがあるし…」
「それだけか?」
「それにコイツの部屋は俺の隣だから…、俺の財布を盗むとしたらコイツしか…っ」
「成程。恨まれる心当たりがあるってわけか?」
「っ、」
「でもそれだけじゃ何の証拠にもなんねぇよ。コイツを犯人だと決め付けるならもっと言い逃れの出来ない証拠が必要だ。そこで…」
パチンと、尊が指を鳴らすとその後ろからサングラスを掛けた黒服の大人達がぞろぞろと現れた。
その威圧的で仰々しい光景にこの場にいる職員や子供達が何だ何だと困惑する。中には恐ろしさのあまり泣き出してしまう子供までいた。
「安心しろ。お前等に危害を加えるつもりはない。このくだらねぇ騒ぎを終息させるためにコイツ等を呼んだだけだ」
「みこと、なにするの…?」
「お前がやってないって証拠を見つけるんだよ」
「そんなこと、どうやって…」
「今からこの施設の全部屋を一斉捜索する。それと簡単な身体検査も受けてもらう。勿論シスターの許可は取ってある」
「そ、そんなっ、一体何の権限があってそんなことを…っ」
「施設管理者の許可を取ったと言ったはずだ。お前等職員と子供は俺の言うことに素直に従っていればそれでいい。これは“神代”の決定だ」
「っ!?」
かみしろ…?
尊の口から初めて聞く単語に首を傾げる。
でも尊がその単語を口にした途端、職員達の顔が一気に強張り誰1人異を唱える者はいなくなった。
「始めろ」
それをいいことに尊が黒服達に指示を出す。
自分と然程変わらない子供のくせに大の大人を顎で使う尊の姿に純粋に凄いと思った。俺も尊のように胸を張って生きてみたいと思った。そうすればいつか母親が迎えに来てくれた時、自信を持って「お母さん」と呼べるような気がしたから。でも自分とはまるで別次元の尊の存在は自分の欠点を突き付けられるような鏡でもあった。お前は尊とは違う。お前は尊にはなれない。お前みたいな人間が胸を張って生きてていいはずがない、と言われているような気がして俺の言葉に耳を傾けてくれた尊の顔を直視することが出来なかった。
それから施設内の全部屋の捜索と全職員と俺を含めた子供達の身体検査は滞りなく行われた。
捜索の結果、盗まれた財布は盗まれたと主張した子供の部屋の中から見つかった。尊が問い詰めたところ子供は俺のことが気に食わなくて俺を施設から追い出すために窃盗事件をでっち上げたと泣きながら白状した。結果的に誰にも被害はなく、事件をでっち上げた子供も素直に謝ってくれたため今回の件はお咎め無しと言うことで話がまとまった。と言うのは建前で実際のところはお小遣いの減額と1年間の雑用&食事係を言い渡されていたらしい。