歪んだ月が愛しくて3
祭り
立夏Side
「ねぇ、早く行こうよ!」と急かす未空を一旦落ち着かせて、俺は身支度と並行して哀さんに1通のメールを送信した。
夏休み期間中は基本生徒を実家に帰すため外泊・外出届の必要はないのだが、俺の場合は文月さんから寮に留まる代わりに随時予定を連絡しろと口すっぱく言われていた。
え?じゃあ何で文月さんじゃないのかって?
別に深い意味はないけど、まあ強いて言うなら素直に文月さんの言うこと聞くのは癪だからね。
それから未空と一緒に学園を出ると正門の前に1台の黒塗りの車が止まっていた。
まさかと思い問い詰めるような視線を未空に送れば当の本人はケロッとした顔で「呼んどいたよ。これで東都まで一瞬だね」なんて言いやがった。
このボンボンめ…。
何が呼んどいただよ。普通に考えてこの短時間で用意出来るわけねぇだろうが。
端っから出掛ける気満々だったな、この策士め。
「ああ、リカとお祭り楽しみだなぁ〜!」
「ははっ、そうだね…」
……先が思いやられる。
そんなこんなで俺達は東都の白羊区までやって来た。
毎年7月下旬に白羊区の神社で行われる例大祭。
区内一の規模で行われ、下町風情を残しつつ勇壮且つ華やかな神輿を主として、3日間に渡り約180万人の人出を数える日本を代表する祭りの一つらしい。
神輿に参加する人は勿論だが、商売繁盛と開運をご利益とする神社の祭りとなれば参拝と的屋目当ての客で毎年ごった返していた。
「わあっ、すっごい人だね!めっちゃ賑わってる!リカよくこんなお祭り知ってたね?」
「まあ、一応ここが地元だから…」
「あ、そっか。じゃあ毎年カナちん達と来てたんだ」
「小さい頃は何度か一緒に来たことあったかも…。よく覚えてないけど」
俺がここを選んだのは純粋にこの祭りしか行ったことがなかったからだ。
他にオススメ出来るところなんて知らないし、時期的にもここかなって思ってこの場所を選んだ。
気に入ってくれなかったらどうしようなんて考えてたけど、未空の様子を見る限りその心配はなさそうで安心した。
……ただ、正直ここもオススメは出来ない。
何故かって?
そりゃ白羊が八重樫のシマだからだよ。