歪んだ月が愛しくて3



「……どう言う心境の変化だ?」



チラッと、イジメっ子達の後ろに控える俺に目配せするカナ。



んー…流石カナちゃん、鋭い。

俺の入れ知恵ってことにも気付いてるだろうなきっと。

何せ体育祭の時に西川くんのことについて話し合った後だもんね。これで気付かない方がどうかしてるか。



「俺達、自分が間違ったことをしてたって今になって気付いたんだ。……いや、こんなバカな俺達に教えてくれた人がいたんだ。間違ったことをしたなら誠意を見せろって教えてくれた人が…」

「へー…」

「俺達も胸張って生きてぇんだよ、あの人やお前みたいに」

「これが正しい形なのかは分かんねぇけど、今出来ることは誠心誠意西川に謝ることかなと思って…」

「みん、な…」



でも彼等の言葉は決して俺が強要したものではない。
だって俺が岩城くんを通じてお願いしたことは「間違ったことをしたなら誠意を見せろ」と言っただけなのだから。
そして彼等は考えて考えて考え抜いて漸く気付いたのだろう、―――西川くんに対する嫉妬心に(間違ったことに)



ヒラヒラと、野球部3人組の後ろからカナに手を振って笑顔を見せる。

するとカナはグッと表情を強張らせて俺から視線を逸らした。



……ん?どゆこと?



「あ、でも謝って終わりってわけじゃねぇから。こんな口だけの謝罪で許してもらえると思ってねぇし、お前の好きな野球の時間を奪っちまったのは俺達のせいだから、お前がもう俺達と関わりたくないってんなら部活を辞めても仕方ないと…」

「や、やめないでっ!!」



途端、西川くんが声を荒げた。
そんな西川くんに野球部3人組も隣にいたカナも驚いた顔を見せた。



「……ぼ、僕、皆に野球部を辞めて欲しくないよ。また一緒に野球がやりたいっ!」

「に、しかわ…」

「……お前、俺達が怖くねぇのか?」

「俺達、散々お前に酷いこと言って来たんだぞ?」

「……確かに3人に言われたことは悲しかったよ。でも僕の球が遅いのは本当のことだし、ピッチャーとして皆に頼りにされてないってことは僕の力不足が原因だから…、だからもっと頑張んなきゃって思えたんだと思う。これも皆のお陰だね、へへっ」



ああ、無邪気な笑顔だこと。

眩しくて、眩しくて、目を開けてられないよ。



生暖かい風がふわふわと西川くんの髪を靡かせる。



……可愛いな。

その上、超が付くくらい性格が良い。



そんな西川くんに絆されない人間はいないだろう。
俺もカナも、そんな西川くんに絆されてどうにかしたいと思った人間の1人だった。



そして、ここにも3人…。



「お、俺達と、また野球やりたいって、思ってくれんの、か…?」

「うん!今度は絶対に勝とうね!僕もっともっと頑張るから!」

「お、俺達も、頑張るぜ!お前に負けねぇようにもっともっとな!」

「っ、ご、ごめんな!俺、本当に…っ」

「ありがとう西川っ、……ありがとぉ!」



野球部3人組は西川くんの目の前で膝から崩れ落ち腕で顔を隠しながら嗚咽を上げた。



「……めでたしめでたし、か?」

「ふむ、拍手した方がいいだろうか?」

「ここで水を差さないで下さいよ、面倒なんで」

「何か陳腐な青春ドラマみたいな展開だったな。しかもお約束の涙で和解って寒過ぎだろう…」

「アオハルって奴だろう、今流行りの」

「アオハル?」

「はぁ…、小1からやり直せバカ」

「何でだよ!?」



まあ、確かに陳腐と言えば陳腐だけど、西川くんの顔を見たらこれで良かったって思えるから水を差すのはやめておこう。

これで一安心だな。



「藤岡も、悪かったな…。無関係なお前のことまで悪く言っちまって…」

「(言われたっけ?)……別に気にしてねぇよ」

「ありがとな。流石兄貴の弟だわ。そう言う心が広いところそっくりだな」

「あ、にき…?」



野球部3人組が一斉に顔を上げて俺を見上げたと同時に、ギロッとした視線が容赦無く突き刺さる。



「……リツ、お前また何かやらかしたな」

「へっ!?な、なな、何のこ…「惚けるな」



ゔっ…、最後まで言わせてもくれない。

ぴえん。



「別に惚けてるわけじゃないんだけど…」

「じゃあ後ろの不良共はどう説明すんだよ?」

「え、後ろって…」



恐る恐る後ろを振り向くと…。



「「「「兄貴、今日からご指導宜しくお願いします!!」」」」



あうち。

準備早過ぎるよ、岩城くん+3人…。



「……ん?リツ、首怪我したのか?」

「え?」



カナの指摘に無意識に首を押さえると、ワイシャツの感触とは違う何かが指先を掠めた。



……ああ、これか。



「ただの虫刺されだよ。寝てる時引っ掻いたみたいで朝起きたら血出てたからワイシャツに付かないようにガーゼ貼ったんだ」

「……じゃあその手は?」

「これは普通に窓に手を挟んだだけ」

「ふーん…」

「何ふーんって?もしかしてカナちゃん心配してくれてんの?ヤダ、ウレシー!お兄ちゃん感激!」

「っ、……ぶりっ子すんなアホ」

「だぁって、カナが俺の心配してくれんのが嬉しいんだもん」



ニィッとおちょくるような笑顔を振り撒けば、カナは驚いた顔をして次第にその表情を歪ませた。



「……そんなの、いつもしてる」

「へ?」

「何驚いてんだよ。兄弟なんだから心配くらいするだろう普通」

「いや、まあ、そうかもしれないけど…」

「じゃあ逆に聞くけど、お前が俺の立場だったらどうだ?心配せずにいられるのか?」

「……無理です」

「そう言うこと」

「で、でも、俺とカナじゃ立場が違うって言うか…」

「兄弟なんだろう?どこが違うって言うんだよ?」

「………」



その問いに答えることが出来ずにいると、痺れを切らしたカナは「何も違くねぇんだよ…」と含みのある言葉を残して西川くんの元へと行ってしまった。


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