歪んだ月が愛しくて3
頼稀Side
「行きますよ兄貴っ!!」
「うん、いつでもいいよ」
「ハッ!!」
「おっりゃぁああ!!」
「おー、いいパンチだねー」
「オラァァアアッ!!」
「うん、岩城くんはいい蹴り持ってんね」
「俺だってまだまだいけますよ!」
「岩城だけ美味しいところ持ってかせねぇからな!」
「俺だって!」
「皆初日からやる気満々じゃん。俺最後まで体力保つかなー」
なーにが体力保つかな、だ。
お前ほどの体力お化けなんて早々いねぇわ。
西川と野球部3人組が和解した後、立夏は約束通り岩城率いるGD連中の特訓に付き合ってやっていた。
立夏とGDの関係に疑念を抱いていた藤岡叶威は中々立夏から離れようとしなかったが、ルームメイトの西川に押し付けて強引に屋上から退散させた。
つまり屋上にいるのは俺達“B2”4人と立夏、そしてGD7人の計12人だけとなった。
……いや、人口密度多いな。
寧ろGDの7人がいらねぇだろう。
まあ、約束したって言うなら仕方ねぇけど。
何だかんだ言って律儀だからな立夏は。……嘘吐きのくせに。
あの日、ナツがゲーセンを去った後、立夏は何食わぬ顔で俺達の元に戻って来た。首元と手の甲に痛々しい咬み傷を拵えて。
それだけじゃない。頬は微かに腫れ、首には咬み傷の他に絞められたであろう手形、服はボロボロで変装用の眼鏡とマスクもなくなっていて如何にも一悶着ありましたって姿で帰って来られたら追及しないわけにはいかなかった。例えその状態に心当たりがあったとしても。
当然俺以外の連中は一目散に立夏に駆け寄り「ど、どうしたのその格好!?」「何で怪我してんのさ!?大丈夫なの!?」「何があったんだよ!?」と心配していたが、当の本人は「何かその辺にいた野良犬に追い掛けられちゃってさ」と悪びれる様子もなくヘラヘラと笑っていた。
確かに相手は“野良犬”かもしれないが、だからって限度ってもんがあるだろうが。
そもそも事務所で作業してるって設定なのに何で犬に追い掛けられてんだよ。無茶苦茶過ぎるわ。
大体時間がなかったとは言え傷痕くらい隠して来いよな。お陰でこっちは散々な目に遭ったんだぞ。
『……どう言うことだ』
『どうとは?』
『誰がやった?』
『何でそれを俺に聞くんですか?』
『誰がやった?』
『(会話する気ねぇなこの人…)さあ、立夏の言う通りその辺に放し飼いの犬でもいたんじゃないですか?』
『あんな戯言に騙されるお前じゃねぇだろう。……つまり、あれに心当たりがあるんだな』
『さあ、どうでしょうね』
『……例の側近の誰かか?』
『(流石…)だとしたらどうします?言っときますけど、俺にはどうすることも出来ませんよ』
『犬が飼い主に噛み付いたとしてもか?』
『飼い主って言ってもアイツ等の関係性に上も下もありませんからね。何せその飼い主が自分のペットに激甘で、ペットの方もペットで飼い主を独占したいが故にどっかの誰かさん達が付けたマーキングを上書きしてるみたいですし』
『そのようだな…』
『(あー…この顔は相当キてんな…)』
あの時の神代会長の顔は傑作だったな。
立夏が傷だらけで帰って来ただけでも内心穏やかじゃないだろうに、尚且つ自分が付けた痕を上書きされたら溜まったもんじゃないだろう。
立夏の前では何ともないって顔して平静を装っていたが、見る人が見ればそれがただの痩せ我慢だと言うことは一目瞭然だった。
そこまで立夏にご執心とはどっかの“犬”といい勝負だな。