歪んだ月が愛しくて3



俺達が対象車を目視した段階でヤエには足止めを解除してもらった。
ついでにヤエとの通話も切って、俺達は白羊を出て隣接の双魚区に入った。
双魚区は東都の南西部に位置し、都心に近いながらも落ち着いた雰囲気を持つ街として知られている。お洒落なエリアと静かな住宅街が共存し、富裕層や著名人なんかにも人気のある街だ。



一体どこに向かってんだ?

双魚を経由して東都を出るつもりなのか?



かと思いきや対象車は大通りから外れて閑静な住宅地があるエリアへと入って行く。
土地柄と既に就寝時間帯と言うこともありここに来て一気に交通量が減少し、辺りも街頭の灯りしかなく人通りもまばらで単車のエンジン音がやけに大きく聞こえる。



「どうする?」



目立つな…。

でもここで見失うわけにはいかない。



「キープ」

「了解」

「それと何か持ってる?」

「チャカとタクティカルなら持ってるけど」

「じゃあナイフの方貸して」

「どうする気?」

「どうもしないよ。ただ万が一の時用で持っておきたいだけ。チャカよりこっちの方が慣れてるしね」

「俺がいるんだから万が一なんて起こらないよ」

「期待してる」



そんな軽口を叩きながら俺はナツの足元に手を伸ばして足首に固定されたナイフを抜き取り自分のズボンのポケットに仕舞った。
そんな俺にナツは「全然してないじゃん…」と不貞腐れながらも俺の好きにさせてくれた。
決して期待していないわけではない。
ナツに言ったように「期待してる」と言ったのは紛れもない俺の本心だ。
でも念には念を入れておきたいのだ。
人は大切なものが出来ると臆病になるって言うけどその通りだと思う。



「シロ、そろそろみたいだよ」



ナツの背中から顔を出して前方を確認すると、対象車のスピードが先程よりも落ちていた。
どうやら目的地が近いようだ。
しかし疑問が残る。
だってこんなところに…、どう見ても住宅街のど真ん中なのに、こんなところに奴等の根城が本当にあるのだろうか。
しかも不思議なことに先程から家らしい家が一軒も見当たらない。一軒も…と言うのは少々語弊があるが、正確に言えばバカ高い塀に囲まれている屋敷みたいなのは見える。でもそれだけ。その一軒しか見えないのだ。



嫌な予感がする。


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