歪んだ月が愛しくて3
幹線道路に出た直後、ナツはギアをマックスまで上げてアクセルを全開にし、信号やら他の車両の通行を全て無視した無茶苦茶な走りを見せた。
メットをしていないため風の抵抗が直に顔や肌に突き刺さる。
しかしスピード緩めるわけにはいかない。
未空を乗せた車は既に白羊の郊外に差し掛かろうとしていた。
このまま白羊から出してたまるか。絶対に。
「ヤエ、念のために足止めしてくれ。5分でいい」
『既に手は打ってある。双魚に出る手前で事故渋滞だ』
「流れは完全に止めるな。横道に入られると面倒だ」
『へいへい』
再びスマートフォンを耳に当ててヤエに指示を出す。
それを直近で聞いているナツは俺の考えを理解してくれたようで、更にスピードを上げて次々と前方の車両を抜かして行く。
時折、サイレンの音が聞こえる。
しかしその音は遠くの方で聞こえるだけで一向に追い付く気配がない。
ただのノロマか、それともヤエが手を回してくれたのか。どちらにせよ邪魔者がいないに越したことはない。追い詰めるなら今しかない。
「―――捕らえた」
その声に顔を上げると、凡そ500メートル前方に黒塗りの高級車が見えた。ナンバーも合ってる。あの車で間違いない。
「追尾でいいんだよね?」
「ああ」
俺が指示を出す前にナツはアクセルを戻しながらブレーキを掛けてスピードを落とす。
ここで事を起こすつもりはないためある程度の距離を保ちつつ前方の車を追尾する。
こちらの存在を気付かれてはいけない。もし気付かれでもしたら車と言う密室の中で何をされるか分かったものじゃない。相手がどんな獲物を隠し持ってるか分からない以上、今こちらから仕掛けるのは得策じゃない。
未空を救出するのは奴等の根城に着いた後だ。出来れば未空が車から下ろされるタイミングがベストなんだけど、そう上手くいくか…。
「ねぇ、アイツが拉致られる心当たりはないの?」
「分かんねぇ…」
さっきの廃工場にいた連中の残党か。
それとも未空個人を狙ったものか。
「でも未空もそれなりに家が金持ちって言ってたから、もしかしたらそっち関係かも」
「アイツの名前は?フルネームで」
「仙堂未空、だけど…」
「仙堂…」