歪んだ月が愛しくて3

特別なお客様




立夏Side





西洋風の厳重な門を潜り、平らな石を隙間なく敷き詰めた敷石の上を歩きながら綺麗に手入れされた庭園を抜けて玄関付近に差し掛かると、タイミング良く内側から正面玄関の扉が開いた。
そこから現れた人物にああやっぱり…、と肩の荷が降りた。



「お待ちしておりました、立夏様」



見覚えのある彼は、この屋敷の使用人であの人の専属執事。



「田中さん…」



こちらがあえて無表情を作っていると言うのに、田中さんはいつもの笑顔を崩すことなく俺の前で頭を下げた。
田中さんがここにいると言うことは俺の記憶は間違っていなかった。



(つまり、ここの主人は…)



田中さんは俺を屋敷内に招き入れると、俺以外の侵入を許さないと言わんばかりに重厚な鉄扉を固く閉めた。
そこは黒と白の市松模様の床に真紅の絨毯が敷かれ、上には巨大なシャンデリアが見下ろす広々とした玄関ホールだった。
玄関ホールの床は日本風に言えば市松模様だが、西洋風に言えばチェス盤のようなチェック模様で、イタリア産の白い大理石と国産の黒い玄昌石で構成されている。フランスのヴェルサイユ宮殿を参考にしたと聞いたことがある。



雑音のない静かな空間。
いつもなら賑やかな玄関ホールには今は俺と田中さんの2人だけ。
他の使用人が出て来ないことを踏まえると、どうやらこの状況は故意に作られたもののようだ。

そこに一つの足音が増える。
その音は玄関ホールの中央にある赤絨毯が敷き詰められた中央階段の上から聞こえて来た。
誰の足音かなんて目を瞑っていても分かる。
足音と共に聞こえる微かな金属音が全てを物語っていた。
俺は階段の近くまで足を進めて顔を上げ、緊迫で彩られたアーチ状の美しい天井に目を奪われることなくある一点を見つめた。



「待ち侘びたぞ」



階段の踊り場で足を止めたのは、黒の着物にグレーの帯を絞めた杖をついた男性。



ああ、このアングル。

昔もこうやって見上げてたっけ…。



懐かしさに目を細めて、その姿をしっかりと目に焼き付ける。
同様に屋敷の主人である彼もまた愛おしいものを見るかのような目で俺を見つめていた。



「この間ぶりじゃの、リリー」

「まもちゃん…」



まさかこんなすぐに再開するとは思わなかったな。

しかも、こんな形で…。


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