歪んだ月が愛しくて3
昔々、とある下町のお屋敷に百合という少女が住んでいた。遊んでいた最中、町の鬼門にたつ『首狩りの祠』を壊してしまった百合。それが恐怖の始まりだった。
その日の晩、百合は何者かに取り憑かれ正気を失ったまま近隣の人々の首を次々と刎ねては殺戮を繰り返していった。そして最後には自ら首を落として命を絶ったと言う。更なる祟りを恐れた人々は強い霊力を持つとされる古い神社の井戸に悪霊となった彼女を封じ込め、井戸の側には二度と悲劇が起こらないよう祈りを込めて新たな祠を建てた。そしていつしかこの悲惨な事件は忘れ去られた。後に彼女は首狩り武者と呼ばれるようになり人々の恐怖の対象となった。
時は流れ現代、日本最古の百貨店「東都越後屋」。その最上階のフロアではなぜか昔から「幽霊が出る」と言う噂が絶えず原因不明の異音や不気味な気配に人々は不安を感じていた。そしてある時、日本最古の百貨店は老朽化により改装されることになった。大規模工事の途中で地下から妙なものが見つかる。それは禍々しい気配を纏った朽ち果てた井戸のようなものだった。実はこの百貨店はあのいわくつきの井戸跡地に建てられていたのだ。
封印が解かれ蘇ってしまった「首狩り武者の呪い」。惨劇は再び繰り返される―――
「―――と言うのがこのお化け屋敷のストーリーみたい」
「凝ってるね〜」
「ホラー関連で有名な会社が企画制作したって言ってたじゃん。それと“荒廃した屋敷、『引き返せ…』という男性の呻めき声、行く手を阻む謎の少女…。恐怖の事件は百合と言う少女が『首狩りの祠』を壊したことから全てが始まります。屋敷に入り込んでしまったら最後、首狩り武者の呪いを解くためには祠へのお祈りが必要です。貴方は無事呪いを解くことが出来るのか…”とも書いてあるよ」
「じゃあ俺達はその祠を探せばいいんだね?」
「祠は全部で五つ。受付でもらったこのお札もどきを祠に置いたら出口への道が開かれるんだって」
「道が開くってどう言う風に開くんだろうね。隠してた道が急に出て来る感じなのかな?開けゴマ〜的な?」
「さあね。このお化け屋敷は完全無人ってわけじゃないみたいだからスタッフの手が入るんじゃない?」
「とりあえず先に進めってことね。それじゃあ行くよレッツゴ〜」
「もう進んじゃってるけどね」
ナツとの電話を終えて受付で板で作られたお札もどきを渡された後、俺と未空と葉桜先生の3人で入口の鳥居を潜ってお化け屋敷をスタートした。
セットの中は真っ暗で何も見えないと言うわけではなくほんのりと薄暗く受付でもらったパンフレットの文字がかろうじて読める程度の照明だった。これならセットにぶつかって壊したり何かに躓いて転ぶこともないだろう。いつどこにお化けが出て来ようと問題ない。
「それにしても…」
暫く歩いたところで未空が足を止めて後ろを振り返る。
未空と横並びで歩いていた俺も未空に釣られて足を止めて振り返ると。
「な、何よ…」
俺達の後ろを歩いていた葉桜先生は突然話を振られて何やら落ち着かない様子を見せた。
「さっきからやけに口数少ないけど何?車ん中では散々嫌味言って来たくせにここに来て急にダンマリ?変なもんでも食べた?」
「失礼ね、食べてないわよ。君と一緒にしないでくれる」
「じゃあ何で話に入って来ないの?いつもなら空気読まずに横から茶々入れて来るくせに」
「だから空気を読んであげたのよ。奥様が2人のために用意したこの場所で水を刺すような真似は出来ないでしょう」
「へぇ、アンタって空気読めたんだ。知らなかった。だったら護衛なんていらないから俺とリカを2人…「ヒッ!」
次の瞬間、ガンッと大きな音に目を瞠った。
葉桜先生は未空と会話しながらも落ち着かない様子で辺りをキョロキョロと見渡して何やら警戒していたかと思いきや突然小さな声を上げて壁に激突した。しかも激突した壁に抱き付いて顔を隠している。これはもしかしてひょっとすると…。
「アンタ、もしかして怖いのダメなの…?」
「……………わ、悪い?」
恥ずかしそうに顔を赤らめて開き直る、葉桜先生。
可愛い系の葉桜先生が急にツンデレキャラぶっ込んで来たら大抵の男はイチコロだろう。でも残念なことにこの場にいるのは俺と未空だけだから間違っても変な気は起きないので安心して欲しい。
「だったら何で付いて来たんだよ?護衛要員はアンタ以外にもいるだろう」
「仕方ないでしょう仕事なんだから!私的な理由で人員を変更するなんて出来ないのよ!」
「それって持論?不相応な人間に守ってもらう方が心配なんだけど」
「不相応ですって!?あたしのどこが相応しくないって言うのよ!?」
「ハリボテのお化けにビビってる人が極悪人から俺達を守れるのかな〜」
呆れた口調の未空に葉桜先生がムキになって言い返す。
何だかいつもの逆を見ているようだ。未空が葉桜先生を言い負かすところも、葉桜先生が劣勢なところも、普段なら見ることの出来ない不思議な光景だった。
「言って置くけどね、あたしは2本若しくは4本の足がしっかり地面に付いている生命体には強いのよ。ただ足がなかったり宙に浮いてる物体には物理的攻撃が効かないからどうやって撃退したらいいか分からないからダメなだけであって決してお化けや妖怪を信じてるわけじゃないの。お岩さんとか座敷童とか貞子とか全然信じてないんだからねっ」
「信じてるんだ…」
「ホラー映画の見過ぎじゃない?」