歪んだ月が愛しくて3



「ぎゃあああああ!!」



二つ目の祠にお札もどきを置いた直後、頭上から降って来た作り物のお化けが葉桜先生を直撃した。



「うわっ!何お化けに体当たりしてんだよ!?」

「先生!目、目を開けて下さい!」

「無理よぉ〜!目を開けたら見えちゃうじゃない!」

「だからぶつかってるんですよ!」



もうすっかり開き直って悲鳴を上げる葉桜先生は作り物のお化けと遭遇する度に発狂してはセットにぶつかってを延々と繰り返していた。
初めはお化けに怖がってる先生って新鮮だなくらいにしか思っていなかったが、故意ではないとは言えここまで自傷行為が酷いとなると葉桜先生が怪我するだけでなく折角のセットまで壊してしまう可能性がある。そうなったら折角のレンちゃんの好意も企画そのものもダメになってしまうかもしれない。でもお化けが怖くて目を開けられないって言うし、いくら訓練を積んでいても目を瞑ったままこの入り組んだお化け屋敷を突破するのは難しいだろう。ここは葉桜先生の手を引いて目を瞑ったまま歩いてもらうしかないか。



「先生、良かったら手…、」



そう思って葉桜先生に手を伸ばそうとした時、未空が俺の手を押し戻して葉桜先生の手を強引に掴んだ。



「な、何っ!?」

「危なっかしくて見てられない。ほら行くよ」

「ま、待って!何で手を…っ」

「俺だって好きで繋いでるんじゃないよ。折角リカとデートだったのに何でアンタなんかと…」

「悪かったわね。そんなに嫌なら今すぐこの手を離して大好きな立夏くんのところに行けばいいじゃない」

「俺がアンタの手を離したら今度はリカがアンタの手を引いて歩くだろうね。だからアンタの手は俺が引く。アンタのことは嫌いだけど俺を差し置いてリカと手を繋がれるよりはマシだから」

「マシって何よ!?あたしだって君じゃなくて立夏くんと手繋ぎたかったわよ!」

「残念でした〜」



互いに文句を言い合いながらも解かれることのない二つの手。
相手を挑発するような憎たらしい顔も、ムキになって言い返す怒った顔も、そんな様々な表情が2人の後ろにいる俺にはよく見えていた。一方的なものではなく対等に言葉を交わす2人の姿を見て自然と口元が緩んだ。いつもこうだったらいいのに…、それが俺の本心だった。



「未空やっさし〜」

「これは優しさじゃなくて牽制だよ。リカと手を繋いでいいのは俺だけなんだから」

「はいはい。でも流石にここでは3人並んで歩けないから俺は後ろから付いて行くね」

「そうなんだよ!何でもっと広く作ってくれなかったのかな!?こんだけ広いスペースにお化け屋敷作ったんだから通路だってもっと広く出来たでしょう!?俺だって本当はリカと手を繋いで歩きたかったのにっ!」

「残念でした〜(笑)」

「俺の真似すんなっ!それさっきの仕返しだろう!」

「仕返しされてる自覚があるなら甘んじて受けなさいよ。このあたしをバカにした罰よ」

「これまで散々俺のことバカにして来たくせによく言うよ!」



未空と葉桜先生の間には他人には分からない何かがある。
聖学にいた時は互いに嫌い合っているだけど思っていたが、ここに来て聖学にいた時よりも葉桜先生と言葉を交わす機会が増えて今までの考えを改めた。特に葉桜先生は分かり易かった。故意に相手を傷付ける言葉を選んでいるくせに時折未空を見ては悲しげに微笑んでいたから。今だって文句を言いながらも未空の手を離そうとしない彼女を見ていると葉桜先生の本心がどこにあるのか分からなかった。
未空の方は相変わらず苦手意識があるようだが、それでも聖学にいた時のあの怯えようは感じられなかった。未空が神代の家に帰りたがらない要因の一つには葉桜先生の存在もあるのかと思っていたが、今の2人を見ていると自分の考えが間違っていたようにも思える。



『まだ治ってないのね、それ』

『っ、』



でも無視は出来ない。
2人の関係に亀裂が入るほどの何かがあったのは確かなのだから。


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