年上男子、全員私にだけ甘すぎる件

Scene 2|声に出せなかった「さみしい」が、ほどけた日

  

 「……はぁ」

 

 誰もいない図書室の奥、
 いちばん窓際の席に座って、そっとため息をついた。

 

 静かで、涼しくて、
 本の匂いと少し古い木の香りが混ざった空間。
 ここは、昔からずっと落ち着く場所だった。

 

 でも今日は、
 なぜだか本の文字が、まったく頭に入ってこなかった。

 

 

 あの子たちの視線。
 何気ない言葉。
 私の手をすり抜けていった空気。

 

 

 たいしたことじゃない。
 気にしすぎって言われたら、それまでで。

 

 

 ……なのに、
 どうしてこんなに、胸の奥がぎゅっとなるんだろう。

 

 

 ぽつん、と落ちたしずくに気づいて、
 はじめて、自分が泣いてることに気づいた。

 

 

 「……うそ、私……泣いてる」

 

 

 涙なんて、
 誰かのやさしさに触れたときくらいしか、流したことなかったのに。

 

 今日みたいに、ひとりで、しずかに泣くのは、
 なんだか自分じゃないみたいだった。

 

 

 「……さみしい」

 

 

 ぽつんと、心の中に沈んでいた言葉がこぼれた。

 

 どうして、誰かに優しくされたあとって、
 そのぶんだけ、胸が苦しくなるんだろう。

 

 

 “ちゃんと見てるよ”って言われたこと、
 ほんとうは嬉しかった。すごく嬉しかった。

 

 

 だけど、
 その言葉すら、信じていいのか怖くて。
 期待しちゃう自分が、いちばんこわくて。

 

 

 ……だったら、ひとりでいい。
 泣くときくらい、ひとりでいたい。

 

 

 そう思ったはずなのに——

 

 

 「……泣くなら、もう少し静かな席がある」

 

 

 ふいにかけられた声に、身体がびくっと反応する。

 

 ゆっくり顔を上げると、
 澪先輩が、静かに立っていた。

 

 

 「……っ、見られたくなかった……」

 

 「うん。でも、見えた」

 

 

 その声は、
 責めるでもなく、笑うでもなく。
 ただ、そこにいてくれるみたいな、あたたかさだった。

 

 

 澪先輩は、何も言わずに私の隣の椅子を引いて、
 いつものように、隣にすわった。

 

 

 その距離が、なんだか、すごくうれしくて。
 でも、もっと泣きたくなって。

 

 

 「……わたし、何もしてないのに……なんで、責められるんだろう」

 

 

 小さな声でこぼしたその言葉に、
 澪先輩は、静かに本を開いた。

 

 

 「この間、ねねちゃんが返した本、覚えてる?」

 

 「……“星を数える夜に”?」

 

 「うん。俺も読んだよ」
 「え……」

 

 「“言葉にしない寂しさほど、誰かに気づいてほしい”って、書いてあった」
 「……」

 

 「今のねねちゃん、それに似てると思った」

 

 

 ぽろ、ってまた涙がこぼれて、
 袖でそっとぬぐった。

 

 

 「……優しすぎます、澪くん」
 「そうかな」
 「……そうです」

 

 

 「優しいって、気づく人にしか届かないんだよ」

 

 

 その言葉が、静かに胸に響いた。

 

 やっぱり、澪くんってずるい。
 ずるいくらいに、やさしい。

 

 

 だから私、
 きっと今日のことを忘れない。

 

 “誰にも見せたくなかった涙”を、
 そっと受け止めてくれた人のことを——
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