年上男子、全員私にだけ甘すぎる件
Scene 3|“わたしのため”って、誰にも言えないけど
次の日の朝。
教室のドアを開ける瞬間、胸の奥がすこしだけギュッとなった。
昨日、あんなふうに泣いたの、ひさしぶりで。
……いや、もしかしたら、はじめてかもしれない。
それでも、今日はちゃんと笑おうって思った。
“泣いたあと”を、ちゃんと歩ける私になりたいって思った。
「おはようございます……っ」
そっと、いつものようにあいさつをした。
でも今日は、少しだけちがった。
「あ……おはよ、ねねちゃん」
「おはよう!」
ふわっと返ってきた声に、一瞬だけ、動きが止まった。
あいさつが、ちゃんと返ってきたことが、
どうしてこんなにびっくりするんだろう。
顔を上げると、前の席の子が、すこしだけ笑っていた。
まるで、何かが変わったことに、気づいてないふりをするような優しさで。
……なんで?
戸惑っていると、
窓際の席に、見慣れた背中が見えた。
「……澪、くん……」
いつもと変わらないようで、
でも、たったひとつだけ違うものがあった。
澪くんの机の上に置かれていたのは——
“昨日、図書室で私が読もうとしていた本”。
しかも、ページの間には、しおりがはさんであって、
それは、私がこっそり作ってポケットにしまっていた手描きのしおりと……おそろいだった。
……どうして、それを。
「……澪くん、あのしおり、見てたんだ」
きゅっと胸がなった。
うれしいとか、照れくさいとかじゃない。
もっと、奥のほう。
じわっとあたたかくなって、ちょっとだけ、泣きそうになる感じ。
声をかけようか迷っていたとき。
澪くんが、本から目を上げて、静かに言った。
「その席、朝日がきれいに入るんだよ」
「……え?」
「ねねちゃんが昨日いた席。……気に入ってくれてたみたいだったから」
まっすぐでもなくて、
優しさ全開でもなくて。
でもたしかに、私のための言葉だった。
「……ありがとう、ございます」
その声が震えそうになったのを、
なんとか笑ってごまかした。
言葉にしなくても伝わるものがあるって、
昨日、澪くんが教えてくれたから。
私は今日、
“ひとりじゃない”ってことを、
ちゃんと信じていい気がしていた。