冷淡女上司を攻略せよ!~ヘタレ年下イケメン男子の恋愛奮戦記~
冬美さんが自席にバッグを置くと、止せばいいのに田代が冬美さんに話し掛けた。

「あの、そこは”おっかない主任”の席なんで、何なら”僕”の隣が空いてますよ。えへへ」

田代は、冬美さんがうちの課に新たに配属された人とでも思ったのだろうか。普段は”俺”なのに”僕”とか言い、愛想笑いとかして気持ち悪い奴だ。それより、確か”おっかない主任”って言ってたな。愚かな奴め。

案の定、
「誰が”おっかない主任”なのよ?」

と、冬美さんに低い声で突っ込まれた。それを聞き、俺はある変化に気付いた。と言うのは、以前の冬美さんなら、

『誰が”おっかない主任”ですか?』

と言っていたはずだ。その僅かな違いに、俺は気付いたのだ。冬美さんは外見が変わっただけではなく、内面も変わったのかもしれない。つまり、優しくなったと。俺はそんな風に思った。もちろん、良い事だと思うが。

「あ、あなた様は、中条主任……ですか?」
「当たり前でしょ?」

「えーっ!?」

大絶叫が起きた。うちの課だけでなく、周囲の課からも奇声が上がっていた。さすがにそこまでは予想しておらず、俺もびっくりした。

その後は、容姿が変わっても相変わらず冬美さんはてきぱきと業務をこなし、彼女と一緒に帰りたい俺は、必然的に業務に励まざるをえなかった。

昼になり、冬美さんを昼食に誘うと、前のように断られる事はなく、一緒に社員食堂へ行った。本当は外へ行きたいところだが、田中という男を警戒し、社外に出るのを控えたのだ。
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