ひとつ、ふたつ、ひみつ。
コソコソと、誰にも見つからないように教室に入り、中腰で自分の席へ。

あっくんは……、あれ、いないや。
なんだ。だったら、堂々と入っても大丈夫だったかな。

机の引き出しの中からマスクを一枚探り当てて、私はまたすぐに教室を抜け出した。

はぁ、ドキドキした。
悪いことはしていないはずなのに、泥棒の気分。

真尋くんが再び人に──女子に見つかる前に、早くマスクしてもらわなきゃ。
図書室は、基本的には人気(ひとけ)がないけれど、休み時間には少し利用者がいるし。

図書室に戻ると、三人だけ生徒がいたけど、はじっこのテーブルを選んだおかげか、真尋くんを気にしている人は特にいなさそう。

「真尋くん、ただいま。はい、マスクだよ」

「おかえり、こまり」

このやり取りだけだと、家にいる時と変わらないな。

首の後ろに手を回されて、自然と顔が近づいて……。

「ん? うぇ!?」

びっくりして、変な声を上げながら間一髪(かんいっぱつ)で手で唇を押し返す。

「い、い、今、キスしようとしたでしょ……!?」

「あ、そっか、おかえりのキスはしないんだっけ」

「今さらだね!?」

あ、真尋くんの雰囲気が、すっかり元通りになってる。
やってることはアレだけど、少し安心。
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