ひとつ、ふたつ、ひみつ。
無言で、傘を剣道部みたいにかまえる。

ビクッと肩を上下させたイケメンが、焦って両手を前に出した。

「もう少し聞いてください! 冗談で言ってるわけじゃなくて、あの、マジで、ガチだから!」

今すぐ殴った方がいいと思う。
だけど、実際に人に危害(きがい)を加えるなんて、中々行動に移せることじゃない。

ためらって、一歩だけ下がる。

「俺がいた日本では、時空を移動する装置が開発されてて、あ、ほら、これ!」

彼が指をさすのは、真っ赤に染まったままのスマートウォッチ(仮)。

「これで、移動ができるんだ。これがあれば誰でも可能なわけじゃなくて、人は選別されてる。能力や、人柄。もちろん、前科持ちは無理で……、だから俺の識別番号で検索してもらえれば、怪しいものじゃないって分か……る、わけないか。世界が違うんだった。えーと、だから」

ここまでひと息でワーッと話したイケメンに、いつの間にか傘をおさえられてしまった。

しまった、手は縛るべきだった。

「時空を移動するつもりだった。本当は、未来しか行っちゃいけないんだけど、規則を破って過去に。そしたら……、行くはずの世界ごと、間違えました!」
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