ひとつ、ふたつ、ひみつ。
「一緒は、無理かなぁ……。教室には、クラスメイトぴったりの席しかないから」

というか、私服だし。なんなら部外者だし。

でも、せっかくだから学校の中を見せてあげたい気持ちも大きい。

屋上は誰にも見つからないだろうけど、ここから見えるものは、せいぜい正門と校庭くらいだし。

せめて、男子の制服さえあれば……。

──キーンコーンカーンコーン……。

「あ、チャイムだ。行かなきゃ。ごめん、真尋くん。次のチャイムまで、ここにいてもらってもいい?」

「いていいの?」

「うん。なんとかなるかもしれないから。ちょっと待っててね」

「分かった」

真尋くんの大きな手が、私のあごに触れる。

そのまま、くいっと上を向かされて。

「待ってる。行ってらっしゃい」

額に落ちてきたキスと、優しい笑顔。

「あ、あいさつのキスは、だめって言った……よ?」

不意をつかれて動揺した私は、真っ赤になった顔でそれしか口に出せなかった。

「そうだっけ? ごめん」
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