冷血CEOにバツイチの私が愛されるわけがない~偽りの関係のはずが独占愛を貫かれて~
オフィスを出て。ビルエントランスを目指す。
エレベーターを降りるタイミングで、手に持っていたスマートフォンが震えた。
裕翔さん……?
「はい、もしもし」
《知花? お疲れ様》
聞こえてきた声に鼓動が高鳴りだす。
以前はそんなことなかったのに、最近はこうして電話で声を聞いただけで意識するようになってしまった。
それも、あの誕生日を祝ってもらった日から加速している。
「お疲れ様です」
《すぐに通話に応じれるということは、もう退勤後か。まだ社にいるかと思って、ちょうど近くを通りがかるところだったから連絡してみた》
思わず「えっ」と声が出る。
「はい、今、ちょうどエントランスロビ―に出てきたところで……」
《そうなのか。それなら、前に停車する》
ちょうど今この前を通りがかるところで電話をかけてくれたらしく、見計らったようにタイミングがいい。
「わかりました。前にいますね」
あとは帰るだけだから、そこまで身なりも気にせず出てきてしまったことを後悔する。
まさか、裕翔さんと顔を合わせることになるなんて思いもしない。
表に出ていくと、見覚えのある車がビル前で停車する。
すぐに運転席から裕翔さんが降車してきた。