冷血CEOにバツイチの私が愛されるわけがない~偽りの関係のはずが独占愛を貫かれて~
「自宅まで送ろう」
「はい、ありがとうございます」
さっと背中に手を添えられて、また助手席へと案内される。
丁寧な所作が自然と出てくることに、今日一緒の時間を過ごして何度も感心させられた。
一流の環境で生まれ育って自然と身についたものなのかもしれないけれど、私にとっては紳士的でうっとりさせられるようなことばかりだった。
七瀬CEOがハンドルを握る車は、ゆっくりと発車してホテル敷地内から出て行く。
「約束していた通り、異動の件も早急に進めたいと思う。現段階で希望の部門はあるのか」
「はい。実は、マッチングチームのほうに興味がありまして。できればそっちにいければありがたいです」
私から希望をきいた七瀬CEOは「ほう」とどこか意外だったかの反応を示す。
「マッチングチームか。なにかやってみたいことでも」
「はい。もし異動ができた際には企画案も出したいと思ってます」
「そうか。楽しみにしてる。後日、正式に異動の通知を出す。少しだけ時間をもらう」
そんな話をしているうち、あっという間に住まいのマンションへと車が近づく。
もう、着くのか。
なんとなくそんな言葉が心に浮かんでくる。
今日出かけるまでの私なら、『やっと終わる!』とここでホッとしていたと思う。
こんな名残惜しいような感情が湧き起こるなんて。