冷血CEOにバツイチの私が愛されるわけがない~偽りの関係のはずが独占愛を貫かれて~
「困らせてしまったか、悪かった」
「い、いえ! 違います! ただ、恐れ多いという意味なんです」
「それなら、少し飾って場所を取るなら処分すればいい」
「処分なんてしません! 観賞用にさせていただきます」
笑いをとるつもりなんてなかったのに、七瀬CEOはくすっと笑う。
「ああ、好きにしてくれ。もうひとつのほうは、さっき食事をしたホテルのケーキだ。嫌いじゃなかったら」
「ケーキまで……ありがとうございます! なんだか、逆に申し訳なくなってきました」
こんなにもらってしまって、更には異動までお願いしているなんて、自分はそれ以上の役割を担えたのか不安しかない。
「さっきも言ったはずだ。今日の報酬にもならないと。君はそれ以上に重要な役を引き受けてくれたんだ」
でも、私の心情を読み取ったかのように七瀬CEOはそんなことを言ってくれる。
あまりしつこく同じことを言うのも逆に失礼だと感じ、素直に「では、ありがたくいただきます」と頭を下げた。
「ああ。じゃ、今日は本当にありがとう。君に依頼して間違いなかった。また会社で」
「はい、こちらこそありがとうございました」
七瀬CEOが車に乗り込んでいくのを前で見送る。
再びエンジンをかけると、窓越しにひらっと手を振り車は私の前から走り去っていった。
ひとりになって、小さく息をつく。
行っちゃった……。
見えなくなった車にそんな言葉が浮かび、自分自身にハッと驚いた。