冷血CEOにバツイチの私が愛されるわけがない~偽りの関係のはずが独占愛を貫かれて~
「まぁ、またなにかあれば相談すればいい。婚約者ということになっているんだからな」
マンション前に車が停車する。
シートベルトを外していると、裕翔さんは「来月……」と切り出した。
「君の誕生日を祝いたい」
「えっ……私の誕生日を、ですか?」
思いもよらぬことを言われ、反応に困ってしまう。
私の誕生日は、一従業員の情報として知り得ているだろうけど、祝いたいだなんて言われると思わなかった。
それは、〝婚約者ということになっている〟から……?
「特に、予定はないです」
素直に答えると、裕翔さんは「よかった」と微笑む。
クールな表情が標準なのに、こんな風に笑みを見せられると無性にドキドキする。これは絶対に反則だ。
「じゃあ、私そろそろ行きますね」
シートに浅く腰をかけ直し、最後にもう一度今日のお礼を告げる。
「裕翔さん、今日は、本当にありがとうございました」
「もう行くのか」
「え……?」
裕翔さんの手が私の手に触れ、薄暗い車内で視線が重なり合う。
自分の鼓動が大きく打ち鳴っていくのを感じながら、腕を引かれていた。
「七瀬CE──」
目の前に影が落ちたと思ったら、傾いた顔が近づき、そこで声は途切れる。
あまりに自然な流れすぎて、警戒することもできなかった。
触れ合った唇はすぐに解放され、代わりに端整な顔をこれまでで一番近くで目にした。