冷血CEOにバツイチの私が愛されるわけがない~偽りの関係のはずが独占愛を貫かれて~


 この間の別れ際に言われた言葉が、耳の奥に残って離れない。

 離れないどころか、そればかり考える始末。

 あのとき、その真意を訊くことはできなかった。できるはずない。

 でも、訊けていたらこんなにぐるぐる考えずに済んだのだろうか。

 特別に、なんて言われて意識しないほうが難しい。

 それに、あのときの口づけはもっと忘れられなくて困っている。

 車内に漂っていたどこか甘い空気。なにかが起こる予感みたいなものは確かに感じていた。

 逃げることだって、拒否することだってできたはず。

 でも、私はそれをしなかった。

 警戒しなかったわけではない。そうなってもいいと、どこかで思っていたのだと思う。

 それはもう、彼のことを意識し始めている証拠。

 そう気づいてしまった今、裕翔さんへの想いは少しずつ募り始めている。

 だけど、この気持ちは自己完結させなくてはならない。

 叶わない、許されない想い。

 私の感情を引き留めているのは、彼が自社のCEOということ。だから、きちんと葬るに決まっている。

 あまり、好きになってはいけない。好きになればなるほど、最後は自分が辛い思いをするから。

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