開発部の門田さんは独占欲が強すぎる
第1章 開発部の門田さんは変な人である
 思えば、幼いころから不運だった。

 遠足の日は必ず雨。大切な日に限って電車は遅延。新卒で入った会社は超ブラック――などなど。

 自分で自分が嫌になる。

 幸いなことに転職先は大手企業で待遇もそこそこいい。

 慣れない部署に配属されたのは不運と言えば不運だけど、努力をしたらなんとでもなるはず。

 ――という期待に胸を躍らせていた一年前の自分を私は殴りたい。

 『開発部①』とプレートのかかった扉。軽くノックして、返事も待たずに扉を開く。

門田(かどた)さん! 書類に不備があるって戻ってきています!」

 一体これで今月何度目なのか。

 椅子に座っていた黒髪の男が振り向いた。目元まで隠れる重い前髪の隙間から覗いた鋭い瞳。

「そう。じゃあ、(たちばな)が代わりに書いといてよ」

 上着のポケットに片手を入れた彼は、私を見てにやりと口元をゆがめた。

「ちょうどいいし、こっちもお願いね」

 彼が椅子ごとくるりと回転してパソコンに向かった。

 打ち込み作業をする彼の背中を見て、私はこぶしを震わせる。

(この人は一体なんなの?)

 ここ一年、何度この疑問を抱いただろうか。

 人としてはダメダメ。協調性がなく、人との会話を好まない。

 ただ唯一仕事のスピードがすごくて、能力値も高い。だから、この会社では重宝されている。

 通称『開発部のエース』

 そう呼ばれるこの男の名前は門田 健悟(けんご)

 ――私、橘 亜矢花(あやか)の直属の上司だ。
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