開発部の門田さんは独占欲が強すぎる
「……気は乗らないけど、走るかぁ」

 この雨に打たれたら、風邪ひいちゃいそう。

 現実逃避をしつつ駆けだそうとして――後ろから服の袖を引かれた。

 振り返ると、そこにはだるそうな表情の門田さんがいる。

「もしかして走って駅まで行く気か?」
「……はい」

 私の返答に対し、門田さんはまるで未知の生物を見るような顔をした。

 そんな顔をしないでほしい。

「通り雨だっていう確証もないじゃないですか。いつまで待ったらいいかわからないですし」
「だけどな、走って帰るというのは愚策だろ」

 人が考えた末の結論を、愚策などと一蹴した門田さん。ひどい。

「駅まで送って行ってやる。どうせタクシー待たせてるしな」
「……悪いです」
「通り道だからだよ。お前のためにいちいち寄るわけがないだろ」

 一瞬すごく親切だって思った。でも、すぐに撤回だ。まぁ、門田さんがこういう人なのは良く知ってたけど。

「ほら、行くぞ」

 彼が歩き出す。私は慌てて彼の背中を追った。

「……門田さんって、案外優しいですね」

 ついつい口が軽くなった。私の言葉に門田さんは嫌そうな表情をした。

「優しいわけない。単に橘に休まれたら困るだけだ」
「……えっと」
「お前がいないと仕事が滞るんだよ。助手だという自覚を持て」

 はい。そういうことでしたか。

(やっぱりこの人はこういう人。私のことを心配したとか、あるわけがないわ)

 ちょっと落胆。

 けど、駅まで送って行ってもらえるのは純粋にありがたい。これ以上余計なことは言わないって心に決める。
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