生徒会長と私

第5話 氷室翼の笑わない理由

「翼君。おはよう」
 鈴のなるような声の彼女の呼びかけにすぐに振り向くと半袖のセーラー服を着た
千早(ちはや) 真琴が手を挙げて、まぶしい笑顔でオレを見る。

 同じ中学校の制服を着た生徒たちが歩いている。
その中でも華奢な身体にすらっとした足、白い肌に、
走って来たらしく少し上気して頬にほんのり紅が差し、
元からの明るさからくる存在感から真琴はひときわ輝いてみえていた。

「真琴さん。おはよう」
「やだ。翼。かたいよ。付き合ってるんだよ私たち」
「ごめん」
「謝らないでよ」と一緒に学校へと歩き始める。

 入学して三か月、同じクラスの女の子。
明るくてクラスの中心でいつも楽しそうに笑っている。

付き合うことになったきっかけは何だったか………

入学式の後、教室で千早 真琴は自己紹介をして最後に
「よろしくね」と笑った顔を見たときに
誰からも愛される人間なんだろうなと思った。

オレの中にはないものを持っている。
 それが第一印象だった。

 入学式から一ヵ月後。
「もうちょっと笑ったほうがいいよ」
 委員長と副委員長に選ばれて何度目かの一緒の仕事をしたとき、
放課後の、誰もいない教室で、
遠足のしおりの文章を一緒に考えていたときに、遠慮がちに言われた。

「あ、ごめん。やっぱ、今のなし。迷惑だよね。人に指図するなんて、
そんな偉い人間でもないのに」
と両手で否定する真琴は、鉛筆を持ち直して、スケジュールを書いていく。

「………気にしないでいい」

 向かい合って座っていた真琴が手を止めて上目づかいにオレを見る。

「氷室くん」

「笑えないだけだから」
「………」

 口をポカーンと開けてオレを見る魔琴。
「やだ。何それ!」と突然、笑い出す。
 このときの笑い声は、いつまでも忘れられない。
一緒にいて楽しそうに笑ってくれた数少ない人間の声だから。
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